源氏物語『若紫・北山の垣間見・若紫との出会ひ』の本文をあらすじにまとめました
このテキストでは、
源氏物語『
若紫』の一節、「
尼君、『いで、あな幼や。』〜」から始まる部分のあらすじと原文を記しています。書籍によっては「
北山の垣間見」や「
若紫との出会ひ」などと題するものもあるようです。
前回のテキスト
源氏物語「若紫・北山の垣間見・若紫との出会い(日もいと長きにつれづれ〜)」のあらすじ・原文
源氏物語とは
※
源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた
紫式部が作者というのが通説です。
本文をあらすじにまとめました
幼い少女が雀を追う様子を見て、少女の面倒をみている尼君は、その無邪気さを嘆きつつも愛おしく感じています。髪を梳くのを嫌がる少女の美しい髪を撫でながら、尼君は、「自分がいま死んでしまったらこの娘はどうなるのだろう」と、後に残される少女の行く末を深く案じ、涙します。その様子を見ていた光源氏も、何とも言えない悲しみを覚えます。
そこに通りかかった僧都が、光源氏が瘧病のまじないに来ていることを尼君に告げ、見に行くように勧めます。その声を聞いた光源氏はその場を後にしました。
光源氏は、少女の可愛らしい顔立ち、特に眉のあたりや額の美しさに見惚れます。そして、何よりも光源氏が深く愛する人に少女がよく似ていることに気づき、涙がこぼれ落ちそうになるのでした。光源氏は、この少女の成長した姿を見たいと強く感じます。
恋い慕う人を亡くしたばかりの光源氏は、偶然見かけたかわいらしい少女にその面影を重ね、自身の慰めにしたいと強く思うのでした。
原文(本文)
尼君、
とて、
「こちや。」
と言へば
ついゐたり。面つきいと
らうたげにて、眉のわたり
うちけぶり、
いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、
いみじううつくし。
ねびゆかむさま
ゆかしき人かなと、目
とまり給ふ。
さるは、
限りなう心を尽くし
聞こゆる人に、いとよう
似奉れるが、
まもらるるなりけりと思ふにも、涙ぞ
落つる。
尼君、髪を
かきなでつつ、
とて、いみじく泣くを
見給ふも、
すずろに悲し。幼心地にも、
さすがにうちまもりて、伏し目になりて
うつぶしたるに、
こぼれかかりたる髪、
つやつやとめでたう見ゆ。
またゐたる大人、
と
うち泣きて、
と
聞こゆるほどに、僧都あなたより来て、
と
のたまへば、
「あないみじや。いと
あやしきさまを人や見つらむ。」
とて簾下ろしつ。
「この世に
ののしり給ふ光源氏、
かかるついでに見奉り給むや。世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の
憂へ忘れ、齢伸ぶる人の御ありさまなり。いで御消息聞こえむ。」
とて立つ音すれば、帰り給ひぬ。
あはれなる人を
見つるかな。
かかれば、このすき者どもは、
かかる歩きをのみして、よくさるまじき人をも
見つくるなりけり。
たまさかに立ち出づるだに、かく思ひのほかなることを見るよと、
をかしう思す。
さても、いと
うつくしかりつる稚かな、何人ならむ、
かの人の御代はりに、明け暮れの慰めにも見ばや、と思ふ心
深うつきぬ。
現代語訳
源氏物語「若紫・北山の垣間見(尼君、「いで、あな幼や〜」)のわかりやすい現代語訳と解説
源氏物語「若紫・北山の垣間見(尼君、髪をかきなでつつ〜)のわかりやすい現代語訳と解説
源氏物語「若紫・北山の垣間見(あはれなる人を見つるかな。〜)のわかりやすい現代語訳と解説
品詞分解
源氏物語「若紫・北山の垣間見(尼君、「いで、あな幼や〜)」の品詞分解
源氏物語「若紫・北山の垣間見(尼君、髪をかきなでつつ〜)の品詞分解
源氏物語「若紫・北山の垣間見(あはれなる人を見つるかな〜)」の品詞分解(助動詞・敬語など)
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は2億を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。