源氏物語『若紫・北山の垣間見・若紫との出会ひ』の原文と現代語訳を徹底解説!
このテキストでは、
源氏物語の一節「
若紫」の「
尼君、髪をかきなでつつ〜」から始まる部分の原文、わかりやすい現代語訳・口語訳とその解説を記しています。「
北山の垣間見」や「
若紫との出会ひ」とする題する書籍もあるようです。
前回のテキスト
源氏物語「若紫」(尼君、『いで、あな幼や〜)の現代語訳と解説
源氏物語とは
源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた
紫式部が作者とするのが通説です。
原文(本文)
尼君、髪を
かきなでつつ、
とて、いみじく泣くを
見給ふも、
すずろに悲し。幼心地にも、
さすがにうちまもりて、伏し目になりて
うつぶしたるに、
こぼれかかりたる髪、
つやつやとめでたう見ゆ。
またゐたる大人、
と
うち泣きて、
と
聞こゆるほどに、僧都あなたより来て、
と
のたまへば、
「あないみじや。いと
あやしきさまを人や見つらむ。」
とて簾下ろしつ。
「この世に
ののしり給ふ光源氏、
かかるついでに見奉り給むや。世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の
憂へ忘れ、齢伸ぶる人の御ありさまなり。いで御消息聞こえむ。」
とて立つ音すれば、帰り給ひぬ。
つづき:
源氏物語『若紫』(あはれなる人を見つるかな〜)の現代語訳と解説
現代語訳(口語訳)
尼君は、(少女の)髪をなでながら、
「髪をとかすことをお嫌がりになりますが、美しい御髪ですね。たいへん幼くいらっしゃるのが、かわいそうで気がかりです。これくらい(の年頃)になれば、こんな(幼稚)ではない人もいるのに。亡くなった姫君(少女の母)は、十歳ぐらいで殿(母親の父・少女からみれば祖父)に先立たれなさったときには、とても道理を理解していらっしゃったのですよ。たった今私が(あなたを)後に残し申し上げて死んでしまったならば、どのようにして世の中に(生きて)いらっしゃるのというのでしょう。」
といって、たいそう泣いているのを(光源氏が)ご覧になるのも、なんということもなく悲しい気がします。(少女は)幼心にも、そうはいってもやはり(尼君のことを)じっと見つめて、伏し目になってうつむいていますが、垂れかかっている髪は、つややかに美しく見えます。
成長していく場所も知らない(これからどのように成長をしていくのかわからない)
若草(のような少女のこと)
を、後に残して消えていく露(のような老い先の短い私)
は、(気になって)
消えようにも消える空がない(死んでも死にきれません)。
※解説:
尼君が詠んだ歌
その(尼君と少女の)横にいる年配の女房は、
「本当に。」
と泣いて、
萌え出したばかりの若草が成長していく将来もわからないうちに、どうして露(尼君)は消えようとするのでしょうか。
※解説:
横にいた女房が詠んだ歌
と申し上げているうちに、僧都があちらから来て、
「こちらは(外から)丸見えではありませんか。今日に限って(部屋の)端にいらっしゃったのですね。この上の高い僧の所に、源氏の中将が瘧病のまじないにいらっしゃったことを、たった今聞きつけました。たいそう人目につかないように隠れていらっしゃったので、存じませんで、ここにおりながら、お見舞いにも参上しませんでした。」
とおっしゃると(尼君は)、
「まぁ大変。とてもみっともない様子を、誰か見てしまったでしょうか。」
と言って簾をおろしてしまいました。(僧都が)
「世間で評判が高くていらっしゃる光源氏を、このような機会に見申し上げなさいませんか。世を捨てた(私のような)法師の心の中にも、たいそう世間の不安を忘れて、寿命が延びるような(気がする光源氏の)ご様子です。さあ、ご挨拶を申し上げましょう。」
と言って立つ音がするので、(光源氏は)お帰りになりました。
つづき:
源氏物語『若紫』(あはれなる人を見つるかな〜)の現代語訳と解説
■次ページ:品詞分解と単語・文法解説