あやし/怪し/奇し/賤し
このテキストでは、シク活用の形容詞「
あやし」の意味、活用、解説とその使用例を記しています。
形容詞・シク活用
未然形 | あやしく | あやしから |
連用形 | あやしく | あやしかり |
終止形 | あやし | ◯ |
連体形 | あやしき | あやしかる |
已然形 | あやしけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | あやしかれ |
※(一)「怪し/奇し」と(ニ)「賤し」とでは意味が異なる。
(一)怪し/奇し
■意味1
不思議だ、神秘的だ。
[出典]:
枕草子 清少納言
「ただ文字一つに、
あやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ。」
[訳]:ただ言葉遣いの一つで、
不思議なことに、上品にも下品にもなるのは、どういうわけでしょうか。
※「あやしう」は、「あやし」の連用形のウ音便
■意味2
異常だ、珍しい、並々ではない。
[出典]:
清涼殿のうしとらのすみの 清少納言
「女御、例ならず
あやしとおぼしけるに...」
[訳]:女御は、いつもとちがって(様子が)
並々ではないとお思いになったところ...
■意味3
よくない、不都合だ、けしからん。
[出典]:
にくきもの 枕草子
「遣戸を、荒くたてあくるも、いと
あやし。」
[訳]:引き戸を、荒っぽく閉めたり開けたりするのも、とても
けしからんことだ。
■意味4
疑わしい、心もとない、心配だ。
[出典]:
竹取物語
「かぐや姫を養ひ奉ること二十余年になりぬ。片時とのたまふに、
あやしくなりはべりぬ。」
[訳]:「かぐや姫を養い申し上げて20年あまりになります。(この20年のことを)少しの間と仰るので、(本当にかぐや姫のことを言っているのか)
疑わしく思いました。
[出典]:
奥の細道 松尾芭蕉
「うひうひしき旅人の道ふみたがえん、
あやしう侍れば...」
[訳]:(この土地に)慣れていない旅人が道を間違えるようなことも、
心配ですから...
(ニ)賤し
■意味1
身分が低い。
[出典]:源氏物語 紫式部
「あやしき海人どもなどの高き人おはする所とて、集まり参りて...」
[訳]:身分の低い漁夫たちなどが、身分の高い方がいらっしゃる所だといって、集まり参上して
■意味2
見苦しい、みっともない。
[出典]:
更級日記 菅原孝標女
「東路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人、いかばかりかは
あやしかりけむを...」
[訳]:京都から東国へ向かう道の最果てよりも、さらに奥の方で育った人(である私)は、(今思うと)どれほどまあ(田舎っぽくて)
見苦しかっただろうに...
■備考
当時の貴族たちからすれば、庶民の生活は不思議で理解できなかったことから(ニ)「賤し」の意味が生まれたとされる。