「なし/無し/亡し」の意味・活用・使用例【形容詞ク活用】
このテキストでは、ク活用の形容詞「
なし/無し/亡し」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
形容詞・ク活用
未然形 | なく | なから |
連用形 | なく | なかり |
終止形 | なし | ◯ |
連体形 | なき | なかる |
已然形 | なけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | なかれ |
■意味1
いない、存在しない。
[出典]:
東下り 伊勢物語
「道知れる人も
なくて惑ひ行きけり。」
[訳]:(一行には)道を知っている者は
いなく、迷いながら行ったのでした。
■意味2
不在である、留守である。
[出典]:古今和歌集
「老いらくの来むと知りせば門さしてなしと答へてあはざらましを」
[訳]:老いがやって来るだろうと知っていたなら、門を閉ざして、留守であると答えて会わないようにしたものを
■意味3
生きていない、死んでいる。
[出典]:
筒井筒 伊勢物語
「さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに...」
[訳]:さて、数年が経つうちに、女は、親が
亡くなり、生活のより所がなくなったので...
■意味4
ないも同然である、世に見捨てられている。
[出典]:絵合
源氏物語
「中ごろ、
なきになりて沈みたりし愁へにかはりて...」
[訳]:少し昔、
世にないも同然な状態になって(須磨に)落ちぶれていた悲しみの代わりに...
■意味5
比類ない、またとない、たぐいない。
[出典]:
かぐや姫の成長
竹取物語
「この児のかたちけうらなること世に
なく、屋のうちは暗き所なく光り満ちたり。」
[訳]:この子どもの容姿は清らかで美しいことはこの世に
たぐいなく、家の中は暗い所がなく光に満ちています。
■意味6:補助形容詞
〜ない、〜でない。
※『形容詞/形容動詞/断定の助動詞「なり」』の連用形、副詞「さ/かく」などに付いて用いられる。
[出典]:
黒鳥のもとに・白波 土佐日記
「この言葉、何とには
なけれども、物言ふやうにぞ聞こえたる。」
[訳]:この言葉は、なんとも
ないのだけれど、気の利いたことを言っているように聞こえる。