『火鼠の皮衣』原文・現代語訳とテストに役立つ解説
このテキストでは、
竹取物語の一節「
火鼠の皮衣」の「
家の門に持て至りて立てり」から始まる箇所を抜粋して、あらすじ、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。「火鼠の皮衣」の読み方は、「ひねずみのかわごろも/かわぎぬ」です。
あらすじ
かぐや姫の美しさを聞いた男たちが、次々とかぐや姫に求婚していきます。しかしかぐや姫に結婚する気はなく、「私がリクエストしたものを持ってきてくれたら結婚を考える」と言います。かぐや姫に求婚した男の1人は
阿部のみむらじという右大臣でした。かぐや姫は阿部のみむらじに、火を付けても全く燃えることのない
火鼠の皮衣を持ってくるようリクエストします。
皮衣を探すために、唐(中国)の商人にまでコンタクトをとった阿部のみむらじ。リクエストしてから数年の月日が経ちましたが、ようやく火鼠の皮衣を手に入れることができたようです。果たしてそれは本物だったのでしょうか。
竹取物語とは
竹取物語は、平安時代初期に成立したとされる物語です。正確な成立年や作者は未詳です。
原文
家の門に持て
至りて立てり。竹取
出で来て取り入れて、かぐや姫に
見す。かぐや姫の、皮衣を
見ていはく、
竹取答へていはく、
と言ひて、
呼び据ゑ奉れり。かく呼び据ゑて、この度は必ず
あはむと、嫗の心にも思ひをり。この翁は、かぐや姫の
やもめなるを嘆かしければ、
よき人に
あはせむと思ひ
はかれど、
せちに「否」と言ふことなれば、え
強ひねば、
ことわりなり。
かぐや姫、翁にいはく、
「この皮衣は、火に焼かむに、焼けずはこそ、まことならめと思ひて、
人の言ふことにも負けめ。『世になき物なれば、それをまことと疑ひなく思はむ』と
のたまふ。なほ、これを焼きて試みむ。」
と言ふ。翁、
「それ、さも言はれたり。」
と言ひて、大臣に、
「かくなむ申す。」
と言ふ。大臣、答へていはく、
「この皮は、唐土にもなかりけるを、
からうじて求め
尋ね得たるなり。なにの疑ひあらむ。さは申すとも、
はや焼きて見給へ。」
と言へば、火の中にうちくべて焼かせ給ふに、めらめらと焼けぬ。
と言ふ。大臣、これを見給ひて、顔は草の葉の色にて居給へり。かぐや姫は、
と喜びてゐたり。かの
詠み給ひける歌の返し、箱に入れて返す。
名残りなく燃ゆと知りせば皮衣
(※1)思ひのほかに置きて見ましを
※
歌の解説
とぞありける。されば、帰りいましにけり。世の人々、
「阿部の大臣、火鼠の皮衣持ていまして、かぐや姫に住み給ふとな。ここにやいます。」
など問ふ。ある人のいはく、
「皮は火にくべて焼きたりしかば、めらめらと焼けに(※2)しかば、かぐや姫、あひ給はず。」
と言ひければ、これを聞きてぞ、
(※3)とげなきものをば、あへなしと言ひける。
現代語訳(口語訳)
(右大臣は火鼠の皮を)家の門に持って行き立っていました。竹取(の翁)が出てきて(火鼠の皮衣を)受け取って、かぐや姫に見せます。これを見たかぐや姫が皮を見て言いました。
「きちんとした皮のようです。(でもこれが)とりわけ本物の(火鼠の)皮だろうということもわかりません。」
竹取(の翁)が答えて言うことには、
「ともかく、まず(右大臣を中に)お招き入れ申し上げよう。世の中で目にすることができないほどの皮衣の(立派な)有り様なので、これを(本物)とお思い下さい。あのお方をひどく困らせ申し上げなさいますな。」
と言って、(右大臣を)中に呼んで座らせ申し上げました。このように呼び座らせたのだから、今度は必ず(かぐや姫は)結婚するだろうと、嫗も心に思っています。この翁は、かぐや姫が独身であるのを嘆かわしく思っていたので、よい人と結婚させようと思い画策するのですが、ひたすら「いやだ」と言うことであるので、(結婚を)無理強いすることもでないので、(こうして期待するのも)もっともなことです。
かぐや姫が、翁に言うことには、
「この皮衣は、火で焼いてみて、もし焼けなければ、本物(火鼠の皮衣)であろう思って、あの方の言うこと(右大臣のプロポーズ)に従いましょう。(おじいさんは、)『この世に(またと)ないものであるから、それを本物だと疑いなく思いなさい。』とおっしゃいます。それでもやはり焼いて試してみましょう。」
と言います。翁は、
「それは、いかにもおっしゃるとおりだ。」
と言って、(右)大臣に
「(かぐや姫が)このように申しています。」
と言います。大臣が、答えて言うことには、
「この皮は、唐(中国)にもなかったのを、やっとのことで探し求めて得たのです。何の疑いがありましょうか。そうは申しても(確認したいというのなら)早く焼いて御覧なさい。」
と言うので、火の中にいれて焼かせなさると、めらめらと焼けてしまいました。かぐや姫は、
「思った通り。別の物の皮であることよ。」
と言います。大臣は、これをご覧になって、顔色が草の葉のような色で座っていらっしゃいます。かぐや姫は
「まあ、嬉しい。」
と喜んでいました。(右大臣から送られた)例の歌の返事を、箱に入れて返します。
跡形もなく燃えると知っていたならば、皮衣を気にかけることもなく焼かずに火の外において見ていましたでしょうに
※
歌の解説
右大臣は、お帰りになってしまいました。
世間の人々は、
「阿部の大臣が、火鼠の皮衣を持っていらっしゃったので、かぐや姫とお住みになられるそうですね。ここにいらっしゃるのですか。」
と尋ねます。ある人が言うことには、
「皮を火にくべて焼いてみたところ、めらめらと燃えてしまったので、かぐや姫はご結婚なさいません。」
と言ったので、これを聞いて(人々はそれ以来)、やりとげることができなかったこと(または張り合いのないこと)を「あへなし」(阿部がいないということ)と言ったのです。
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