はじめに
このテキストでは、
源氏物語の一節「
若紫」で詠まれている歌「
生ひ立たむありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えむそらなき」の現代語訳・口語訳と品詞分解、そして解説を記しています。
※
源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた
紫式部を作者とするのが通説です。
原文
生ひ立たむありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えむそらなき
ひらがなでの読み方
おひたたむありかもしらぬわかくさを おくらすつゆぞきえむそらなき
現代語訳
成長していく場所も知らない(これからどのように成長をしていくのかわからない)
若草(のような少女のこと)
を、後に残して消えていく露(のような老い先の短い私)
は、(気になって)
消えようにも消える空がない(死んでも死にきれません)。
解説
「若草」は少女を、「露」は今日明日の命かもしれない尼君のことを指している。また、「生ひ立たむありか」を、若草が生える場所と、少女の成長の行く末という意味にかけて用いている。
歌に登場する少女と同世代の子であればもっとしっかりしている子がいるにもかかわらず、未だに幼稚なことで涙を流す少女を見て、世話役である尼君が少女の将来を案じて詠んだ歌。
単語・文法
生ひ立た | タ行四段活用「生ひ立つ」の未然形 |
若草 | 少女 |
おくらす | サ行四段活用「おくらす」の連体形。先に死んで人を後に残す |
露 | 尼君 |
ぞ〜なき | 係助詞「ぞ」〜連体形「なき」なので係り結び |
品詞分解
※名詞は省略しています。
生ひ立た | タ行四段活用・未然形 |
む | 推量の助動詞・連体形 |
ありか | ー |
も | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用・未然形 |
ぬ | 打消の助動詞・連体形 |
若草 | ー |
を | 格助詞 |
おくらす | サ行四段活用・連体形 |
露 | ー |
ぞ | 係助詞 |
消え | ヤ行下二段活用・未然形 |
む | 意志の助動詞・連体形 |
そら | ー |
なき | 形容詞・ク活用・連体形 |