たまふ/給ふ/賜ふ
このテキストでは、動詞「
たまふ」の意味、活用、解説とその使用例を記しています。「たまふ」にはハ行四段活用(尊敬語の用法)とハ行下二段活用(謙譲語の用法)があります。
ハ行四段活用(尊敬語の用法)
未然形 | たまは |
連用形 | たまひ |
終止形 | たまふ |
連体形 | たまふ |
已然形 | たまへ |
命令形 | たまへ |
■意味1:他動詞
(与ふ/授くの尊敬語で)
お与えになる。
(遣すの尊敬語で)
およこしになる。
[出典]:源氏物語 紫式部
「内裏の帝、御衣ぬぎて賜ふ。」
[訳]:帝が、御召物を脱いでお与えになる。
[出典]:伊勢物語
「このありつる人賜へ。」
[訳]:さっきの人をおよこしください。
■意味2:他動詞
(命令形「たまへ」の形で)
しなさい、してください。
[出典]:
丹波に出雲といふ所あり 徒然草
「いざ
給へ、出雲拝みに。かいもちひ召させん。」
[訳]:さあ
いらっしゃい、出雲(神社)を拝みに。ぼたもちを召し上がらせましょう。
■意味3:補助動詞
お〜になる、〜なさる。
※この用法の場合、動詞や受身/自発の助動詞「る/らる」、そして尊敬の助動詞「す/さす/しむ」の連用形につく。また、「せたまふ、させたまふ、しめたまふ」はより高い敬語(最高敬語/二重敬語)を表す場合もあるので文脈から判断する。
[出典]:
かぐや姫の嘆き 竹取物語
「八月十五日ばかりの月に出でゐて、かぐや姫いといたく泣き
たまふ。」
[訳]:八月十五日ごろの月が出ているときに、かぐや姫ははげしく
お泣きになります。
[出典]:
弓争ひ大鏡
「時違ふことなく勤め
させ給ひて...」
[訳]:(藤原道長は)時間を間違えることなくお勤めに
なられましたが...
ハ行下二段活用(謙譲語の用法)
未然形 | たまへ |
連用形 | たまへ |
終止形 | たまふ |
連体形 | たまふる |
已然形 | たまふれ |
命令形 | ◯ |
■意味1:他動詞
(受く/もらふ/食む/飲むの謙譲語で)
頂く。
[出典]:万葉集 狭野茅上娘子
「魂は朝夕べにたまふれど吾が胸痛し恋の繁きに」
[訳]:あなたの心は常々頂いて(感じて)いますが、私の胸は痛みます。恋の激しさのために。
■意味2:補助動詞
〜させて頂く。
※この用法の場合、「思ふ」、「見る」、「聞く」、「知る」などの連用形につく。また、終止形で用いられることはほとんどない。
[出典]:今昔物語
「さらば今宵は御宿直つかまつりて、朝見給へむ。」
[訳]:それでは今夜は宿直をし申し上げて、朝見させて頂きます。