新規登録 ログイン

9_80 文章の読み解き / 文章の読み解き

平家物語『忠度の都落ち(薩摩守忠度は、いづくよりや帰られたりけん〜)』の現代語訳

著者名: 走るメロス
Text_level_1
マイリストに追加
平家物語『忠度の都落ち』の原文・現代語訳と解説

このテキストでは、平家物語の一節『忠度の都落ち』(薩摩守忠度は、いづくよりや帰られたりけん〜)のわかりやすいの現代語訳(口語訳)とその解説を記しています。



平家物語とは

祇園精舎の鐘の声〜」で始まる一節で広く知られている平家物語は、鎌倉時代に成立したとされる軍記物語です。平家の盛者必衰、武士の台頭などが描かれています。


原文(本文)

薩摩守忠度は、いづくよりや帰られたりけん、侍五騎、童一人、わが身ともに七騎取つて返し、五条の三位俊成卿の宿所におはして見給へば、門戸を閉ぢて開かず。

「忠度。」


名のり給へば、

「落人帰り来たり。」


とて、その内騒ぎ合へり。





薩摩守、馬より下り、みづから高らかにのたまひけるは、

(※1)(※2)子細候はず。三位殿に申すべきことあつて、忠度が帰り参つて候ふ。門を開かれずとも、このきはまで立ち寄らせ給へ。」


とのたまへば、俊成卿、

さることあるらん。その人ならば苦しかるまじ。入れ申せ。」


とて、門を開けて対面あり。ことの体、(※3)何となうあはれなり





薩摩守のたまひけるは、

年ごろ申し(※4)承つてのち、おろかならぬ御ことに思ひ参らせ候へども、この二、三年は、京都の騒ぎ、国々の乱れ、しかしながら当家の身の上のことに候ふ(※5)間(※6)疎略存ぜずといへども、常に参り寄ることも候はず。君すでに都を出でさせ給ひぬ。一門の運命はや尽き候ひぬ。

撰集のあるべきよし承り候ひしかば、生涯の面目に、一首なりとも、御恩を(※7)かうぶらうど存じて候ひしに、やがて世の乱れ出で来て、その(※8)沙汰なく候ふ条、ただ一身の嘆きと存ずる候ふ。世静まり候ひなば、勅撰の御沙汰候はんずらん。これに候ふ巻き物のうちに、さりぬべきもの候はば、一首なりとも御恩を(※9)かうぶつて、草の陰にてもうれしと存じ候はば、遠き御守りでこそ候はんずれ。」








とて、日ごろ詠みおかれたる歌どもの中に、秀歌とおぼしきを百余首書き集められたる巻き物を、今はとてうつ立たれけるとき、これを取つて持たれたりしが、鎧の引き合はせより取り出でて、俊成卿に奉る。

つづく:平家物語『忠度の都落ち(三位これを開けて見て〜)の現代語訳

現代語訳(口語訳)

薩摩守忠度は、どこからお帰りになったのでしょうか、侍五騎、童一人、ご自身とともに七騎で引き返し、五条三位俊成卿の屋敷にいらっしゃってご覧になると、(屋敷は)門を閉じて開かずにいます。





「忠度です。」


とお名乗りになると、

「落人が帰ってきた。」


といって、その(屋敷)中は騒ぎ合っています。薩摩守は、馬からおりて、自ら大声でおっしゃったことには、

「特別な事情はございません。三位殿に申し上げることがあって、忠度は戻って参ってございます。門をお開けにならなくとも、(門の)側までお近寄りください。」


とおっしゃるので、俊成卿は、

「(わざわざ戻ってきたのには)そのようなこと(理由)があるのでしょう。その方なら差し障りないでしょう。(中に)入れ申し上げなさい。」


といって、門をあけてお会いになります。その(対面の)様子は、これということもなくしみじみとしています。





薩摩守がおっしゃることには、

「長年(和歌について質問を)申し上げ(それについての教えを)お聞きして以来、(あなた様のことは)なおざりなことではないことと思い申し上げていましたが、ここ二、三年は、京都での騒ぎや、国々の乱れ、すべて平家の身の上のことでございますので、(俊成卿のことは)ぞんざいに思ってはいませんと申しましても、普段はお近くに寄り申し上げることもできませんでした。帝(安徳天皇)はとっくに都をお出になられています。(平家)一門の運命はもはや尽きてしまいました。





勅撰和歌集の編纂があるだろうという旨を伺いましたので、(私の)生涯の名誉に、一首だけでも、ご恩を頂こうと思っておりましたが、まもなく世の中の動乱が生じ、その指示がございませんことは、ただもう一身の嘆きと思っております。世(の中の動乱)が収まりましたら、勅撰のご命令がございましょう。ここにございます巻物の中に、(勅撰集にのせるのに)ふさわしいものがございますなら、一首だけでもご恩を受けて、あの世でも(恩を受けたことを)うれしいと思いましたならば、遠いところ(あの世)からあなた様をお守り申し上げましょう。」




といって、日頃詠みためていらっしゃる歌の中から、秀歌と思われる(歌)百余首をかき集めなさっていた巻物を、もうこれまでと(思って)出発なさったときに、これを取ってお持ちになられたのですが、(その巻物を)鎧の引き合わせの部分から取り出して、俊成卿にお渡しになります。

つづく:平家物語『忠度の都落ち(三位これを開けて見て〜)の現代語訳

次ページ:品詞分解と単語・文法解説

1ページへ戻る
前のページを読む
1/2
次のページを読む

Tunagari_title
・平家物語『忠度の都落ち(薩摩守忠度は、いづくよりや帰られたりけん〜)』の現代語訳

Related_title
もっと見る 

Keyword_title

Reference_title
『教科書 精選古典B 』三省堂
ベネッセ全訳古語辞典 改訂版 Benesse
佐竹昭広、前田金五郎、大野晋 編1990 『岩波古語辞典 補訂版』 岩波書店
『教科書 高等学校古典B』 第一学習社

この科目でよく読まれている関連書籍

このテキストを評価してください。

※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。

 

テキストの詳細
 閲覧数 402,014 pt 
 役に立った数 301 pt 
 う〜ん数 70 pt 
 マイリスト数 0 pt 

知りたいことを検索!

まとめ
このテキストのまとめは存在しません。