十訓抄『成方といふ笛吹き』現代語訳をわかりやすく解説
このテキストでは、
十訓抄の一節『
成方といふ笛吹き』の「
昔、趙の文王〜」から始まる部分の原文、わかりやすい現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては、「
成方の笛」や「
成方と名笛」、「
笛吹成方の大丸」などと題するものもあるようです。
前回のテキスト
十訓抄『成方の笛(成方といふ笛吹き)』の現代語訳と解説
十訓抄とは
十訓抄は鎌倉中期の説話集です。編者は未詳です。
原文(本文)
昔、趙の文王、和氏が璧、宝とせり。秦の昭王、
いかでこの玉を
得(※1)てしがなと思ひて、使ひを
遣はして、
と
聞こゆ。趙王、
大きに嘆き驚きて、
(※2)藺相如を使ひとして、玉を持たせて秦に
やる。昭王、うち
取りて返さむともせざりければ、
謀を
めぐらして、
と言ひて、玉を
請ひ取りてのち、
にはかに怒れる
(※3)色を
なして、柱をにらみて、玉を
うち割らむとす。時に秦王、許して返してけり。
玉をこそ
砕かねども、成方が風情、
(※4)あひ似たり。
藺相如の活躍については、中国の故事「
完璧」に記載。
現代語訳(口語訳)
昔、趙の文王が、和氏の璧(という名玉)を、宝として(持って)いました。秦の昭王は、どうにかしてこの玉を自分のものにしたいものだと思い、使者を(趙に行くよう)命じて、
十五の城を分配するので、玉(和氏の璧)と取り換えよう。
と申し上げました。趙王は、ひどく悲嘆しびっくりして、藺相如を使者として、玉を持たせて秦に行かせました。昭王は、(玉を手に)持って返そうともしなかったので、(藺相如は)策略を思い巡らして、
「心身を清めた人でなければ、この玉を取ること(があって)はなりません。」
と言って、玉を頼み求め(うまくだまして)受け取ったあと、急に怒った表情をして、柱をにらんで、玉を叩き割ろうとしました。そのときに秦王は、(藺相如のことを)許して(趙の国に)返しました。
玉こそ粉々にしてはいませんが、成方の有様は、互いに似ています。
藺相如の活躍については、中国の故事「
完璧」に記載。
単語・文法解説
(※1)てしがな | 願望を表す終助詞 |
(※2)藺相如 | 藺相如の活躍については、中国の故事「完璧」に記載 |
(※3)色 | ここでは「表情、顔色」の意味で訳す |
(※4)あひ | 接頭語。「互いに」と訳す |
関連テキスト
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著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。