とる/取る/執る/採る/捕る
このテキストでは、ラ行四段活用の動詞「
とる/取る/執る/採る/捕る」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
ラ行四段活用
未然形 | とら |
連用形 | とり |
終止形 | とる |
連体形 | とる |
已然形 | とれ |
命令形 | とれ |
■意味1:他動詞
持つ、つかむ、握る。
[出典]:
かぐや姫の昇天 竹取物語
「...とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて奉らす。中将に、天人
取りて伝ふ。」
[訳]:...と詠んで、壺の薬を付け加えて、頭の中将を呼び寄せて(帝に)献上させます。中将に、天人は(壺を)
持って(そのことを)知らせます。
■意味2:他動詞
捕まえる、捉える。
[出典]:女院死去 平家物語
「壇の浦にて生きながらとられし人々は、大路を渡して頭をはねられ...」
[訳]:壇ノ浦で生きたまま捉えられた人々は、(都の)大通りを歩かせて(その後に)首をはねられ...
■意味3:他動詞
(手で)
操作する、扱う、使う。
[出典]:万葉集
「香島より熊来を指して漕ぐ舟の梶とる間なく都し思ほゆ」
[訳]:香島から熊来を目指して漕ぐ舟が櫓を絶え間なく操作するように、絶え間なく都のことが思われます
■意味4:他動詞
採取する、収穫する。
[出典]:
竹取物語
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を
取りつつ、よろづのことに使ひけり。」
[訳]:今となっては昔のことですが、竹取の翁という者がいました。野や山に分け入って竹を
採取しては、いろいろなことに用立てたのでした。
■意味5:他動詞
支配する、自分のものにする、奪う。
[出典]:
猫また 徒然草
「山ならねども、これらにも、猫の経上りて、猫またに成りて、人
とる事はあなるものを。」
[訳]:山ではなくても、この辺りにも、猫が年を取って変化して、猫またになって人(の命)を
奪うことがあるらしい。
■意味6:他動詞
選ぶ、採用する、選び出す。
[出典]:
大江山の歌 十訓抄
「和泉式部、保昌が妻にて、丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるを、小式部内侍、歌詠みに
とられて、歌を詠みけるに...」
[訳]:和泉式部が、藤原保昌の妻として、丹後の国に赴いた頃のことですが、京都で歌合わせがあったときに、(そこに和泉式部の娘の)小式部内侍が、歌の詠み手に
選ばれて歌を詠んだのを...
■意味7:他動詞
拍子をとる、調べに合わせる。
[出典]:
いでや、この世に生まれては 徒然草
「手など拙からず走り書き、声をかしくて拍子
とり、いたましうするものから、下戸ならぬこそ、男はよけれ。 」
[訳]:文字などは下手ではなくすらすらと書き、(酒宴の座では)声がよくて(楽器の)調子を
あわせ、(酒をすすめられて)困った様子はみせるものの、下戸ではない人こそ、男としてはよいものです。
■意味8:他動詞
(様子を)うかがう、推量する。
[出典]:花散里 源氏物語
「さきざきも聞きし声なれば、声作り、気色をとりて、御消息聞こゆ。」
[訳]:以前にも聞いた(ことのある)声なので、咳払いをして、様子をうかがってから、ご伝言を申し上げる。
■意味9:他動詞
〜に関係する、〜に関して、〜について、〜によって。
※この用法の場合「〜にとりて」の形で用いられる。
[出典]:
五月五日、賀茂の競べ馬を 徒然草
「人、木石にあらねば、時に
とりて、物に感ずることなきにあらず。」
[訳]:人は、木や石(のように無感情なもの)ではないので、時
によって、心打たれることがないわけではない。