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大鏡『道真の左遷』(右大臣は才よにすぐれめでたくおはしまし〜)のわかりやすい現代語訳と解説
著作名: 走るメロス
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『道真の左遷』

このテキストでは、大鏡の一節『道真の左遷』(右大臣は才世に優れめでたくおはしまし〜)の原文、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては、『菅原道真の左遷』や『東風吹かば』などと題するものもあるようです。



大鏡とは

大鏡は平安時代後期に成立したとされる歴史物語です。藤原道長の栄華を中心に、宮廷の歴史が描かれています。


原文

右大臣はよに優れめでたくおはしまし、御心おきても、ことのほかにかしこくおはします。左大臣は御年も若く、才もことのほかに劣り給へるにより、右大臣の御おぼえことのほかにおはしましたるに、左大臣安から思したるほどに、さるべきにやおはしけむ、右大臣の御ためよからぬこと出できて、(※1)昌泰四年正月二十五日、大宰権帥になしたてまつりて、(※2)流され給ふ。





この大臣、子どもあまたおはせしに、女君たちは婿取り、男君たちは皆、ほどほどにつけて位どもおはせしを、それも皆方方に流され給ひてかなしきに、幼くおはしける男君・女君たち慕ひ泣きておはしければ、

と、朝廷も許させ給ひしぞかし。帝の御(※3)掟きはめてあやにくにおはしませば、この御子どもを、同じつかはさざりけり。方方にいとかなしく思し召して、御(※4)前の梅の花を御覧じて、
東風吹かばにほひおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ

歌の解説




また、(※5)亭子の帝聞こえさせ給ふ、 
流れゆくわれはみづくとなりはてぬ 君しがらみとなりてとどめよ

歌の解説

なきことにより、かく罪せられ給ふを、かしこく思し嘆きて、やがて山崎にて出家せしめ給ひて、都遠くなる(※6)ままにあはれに心細く思されて、
君が住む宿の梢をゆくゆくと隠るるまでも返り見しはや

歌の解説




また、(※7)播磨の国におはしまし着きて、明石の駅といふ所に御宿りせしめ給ひて、駅の長のいみじく思へる気色を御覧じて、作らしめ給ふ詩、いとかなし。
駅長莫驚時変改
一栄一落是春秋




現代語訳(口語訳)

右大臣(菅原道真)は学識にとても富み立派でいらっしゃいますし、ご性格も、格別にすばらしくていらっしゃいます。(一方)左大臣はお年も若く、学識も格段とひけをとっていらっしゃるので、右大臣への帝のご信頼は格別なものでございましたが、(そのことを)左大臣は心安らかではなくお思いになるうちに、そうなるはずの運命でいらっしゃったのでしょうか、右大臣殿にとって好ましくないことが生じ、昌泰四年一月二十五日に、(朝廷が右大臣を)大宰権帥に任命し申し上げ、(太宰府へと)左遷されなさいます。

この大臣(菅原道真)には、子どもが多くいらっしゃいましたが、姫君たちは婿を取り、ご子息たちは皆、それぞれ身分に応じて位などがおありでしたのを、その人たちも皆あちらこちらに左遷されになって悲しいのに、(まだ)幼くていらっしゃった男君や女君たちが、(父である菅原道真を)慕って泣いていらっしゃったので、
「幼い者は(連れていっても)差し支えないだろう。」

と、朝廷もお許しになったのですよ。帝のご処置が、非常に厳しくていらっしゃったので、このご子息たちを、同じ場所におやりにならなかったのでした。(菅原道真は)あれこれととても悲しくお思いになって、お庭先の梅の花をご覧になって(お詠みになられた歌)
(春になって)東の風が吹いたならば、その香りを(私のもとまで)送っておくれ、梅の花よ。主人がいないからといって、(咲く)春を忘れてくれるなよ。


また、宇多天皇に申し上げなさる(歌)
(太宰府へと)流れていく私は、水の藻屑のような身になってしまいました。我が君よ、どうか(水屑をせき止める)しがらみとなって、私をとどめてください。

無実の罪によって、このように罰せられなさるのを、大いに嘆き悲しまれ、まもなく(道中の)山崎で出家なさり、都が遠くなるにつれて、しみじみと心細くお思いになって(お詠みになった歌)
あなたが住んでいる家の梢を、(西への)道すがら、(それが)隠れ(て見えなくな)るまで振り返って見たことですよ。

また、播磨の国にご到着になって、明石の駅という所にお泊まりになり、(そこの)駅長がたいそう心配する様子を(菅原道真)がご覧になって、お作りになられた歌は、とても悲しいものです。

駅長よ、時の変化を驚くことはありません。
栄枯盛衰というのは、春に草木が芽生え、秋に散っていくのと同じことですよ。


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