よし/良し/善し/好し/吉し
このテキストでは、ク活用の形容詞「
よし/良し/善し/好し/吉し」の意味、活用、解説とその使用例を記しています。
形容詞・ク活用
未然形 | よく | よから |
連用形 | よく | よかり |
終止形 | よし | ◯ |
連体形 | よき | よかる |
已然形 | よけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | よかれ |
※「よう」は連用形「よく」のウ音便。
■意味1
優れている、立派な、上等な。
[出典]:
枕草子 清少納言
「
よき草子などはいみじう心して書けど、必ずこそ汚げになるめれ。 」
[訳]:
上等な本などのときには大変注意して書くのだが、必ず汚らしくなってしまうようだ。
■意味2
(外見が)
美しい。
[出典]:
更級日記 菅原孝標女
「盛りにならば、容貌も限りなく
よく、髪もいみじく長くなりなむ。」
[訳]:年ごろになれば、見た目もこの上なく
美しく、髪もきっとたいそう長くなるだろう
■意味3
(人柄や健康が)
よい。
[出典]:宇治拾遺物語
「御心地いとさはやかに、残りなくよくなりたまひぬ。」
[訳]:ご気分はたいそうさっぱりとして、すっかりよくおなりになってしまいました。
■意味4
栄えている、裕福である。
[出典]:伊勢物語
「貧しく経ても、なほ昔よかりし時の心ながら世の常のことも知らず。」
[訳]:貧しく暮らしていても、依然として昔栄えていたときの心のままで世間並みの(暮らしの)ことも知らない。
■意味5
身分が高い、高貴である。
[出典]:
今昔物語集
「...と、笏を取りて、
よき人に物申すやうにかしこまりて答へければ...」
[訳]:...と笏を手に、
身分の高い人に話すかのようにかしこまって答えたところ...
■意味6
教養がある、上品である。
[出典]:
徒然草 兼好法師
「
よき人は、ひとへに好けるさまにも見えず、興ずるさまも等閑なり。」
[訳]:
教養のある人は、むやみに風流を好んでいるようにも見えず、(趣を)楽しむ様子もあっさりとしている。
■意味7
巧みである、上手である。
[出典]:
羽根 土佐日記
「男も女も、 『いかでとく京へもがな。』と思ふ心あれば、この歌
よしとにはあらねど、『げに。』と思ひて、人々忘れず。」
[訳]:男性も女性も 『どうにかして早く京都へ帰りたい。』と思う心があるので、(女の子の詠んだ)この歌が
上手だというわけではないのだけれど 『本当に(そのとおりだ)。』と思い、(この歌のことを)忘れない。
■意味8
好ましい、好感が持てる。
[出典]:徒然草 兼好法師
「さる心ざましたる人ぞよき。」
[訳]:そのような気立てをしている人は好感が持てる。
■意味9
縁起が良い。
[出典]:源氏物語 紫式部
「今日はよき日ならむかし。」
[訳]:今日は(髪を切るのに)縁起の良い日でしょうな。
■意味10
適当な、ちょうどよい、不足ない。
[出典]:
竹取物語
「三月ばかりになるほどに、
よきほどなる人になりぬれば...」
[訳]:3ヶ月ほどになると、(人並みの)
ちょうどよい大きさの人になってしまったので...
■意味11
正しい、適切である。
[出典]:
風姿花伝 世阿弥
「さのみに、
よきあしきとは教ふべからず。」
[訳]:そうむやみに、
正しい正しくないと教えるべきではありません。
■意味12
親しい、仲睦まじい。
[出典]:
徒然草 兼好法師
「男女をば言はじ、女どちも、ちぎり深くて語らふ人の、末までなか
よき人、難し。」
[訳]:男女の仲については言うまでもないが、女同士でも、約束して深く付き合っている人で最後まで仲
睦まじい人というのはめったにいない。
補助形容詞・ク活用
未然形 | よく | よから |
連用形 | よく | よかり |
終止形 | よし | ◯ |
連体形 | よき | よかる |
已然形 | よけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | よかれ |
■意味1
〜(し)やすい。
※この用法の場合、動詞の連用形につく。
[出典]:古今和歌集
「山里はもののわびしきことこそあれ世の憂きよりは住みよかりけり」
[訳]: 山里(での生活)は心細いことではあるが、俗世間のわずらわしい暮らしよりは住みやすかったことよ
■意味2
構わない、差し支えない。
[出典]:源氏物語 紫式部
「...はかなきついでの情あり、をかしきに進める方なくてもよかるべし、見えたるに...」
[訳]: ちょっとした時々に情緒を理解する心があり、風情があることを理解する点がなくてもかまわないはずだ、と思うのだが...