このテキストでは、源氏物語の『葵』の章の一節、「あまりいたう泣き給へば〜」から始まる部分のわかりやすい現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては『葵の上』、『物の怪の出現』『御息所のもの思い』とするものもあるようです。



※前回のテキスト：「まださるべきほどにもあらず〜」の現代語訳と解説



源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた紫式部が作者とするのが通説です。



あまりいたう泣き給へば、

と思して、

と慰め給ふに、

となつかしげに言ひて、


とのたまふ声、けはひ、その人にもあらず変はり給へり。


と思しめぐらすに、ただかの御息所なりけり。あさましう、人のとかく言ふを、よからぬ者どもの言ひ出づることと聞きにくくおぼしてのたまひ消つを、目に見す見す、

と、うとましうなりぬ。





（葵の上が）あまりひどくお泣きになるので、

と（光源氏は）お思いになり、

とお慰めになりますが、


と（葵の上は）親しそうに言って

とおっしゃる声や雰囲気は、その人（葵の上）のものではなくお変わりになっています。

と（光源氏が）お考えをめぐらしていると、（葵の上の体に乗り移ったのは）まさにあの御息所なのでした。驚くことだ、人があれやこれやとうわさするのを、下々の者たちが言い出すことだと聞いていて不愉快だとお思いになって無視していらっしゃったのに、目の前に見ているうちに、

と、気味が悪くなったのです。