|
|
|
更新日時:
|
|
![]() |
枕草子『にくきもの(急ぐことあるをりに来て~)』わかりやすい現代語訳と解説 |
著作名:
走るメロス
172,241 views |
枕草子『にくきもの・前編』の原文・わかりやすい現代語訳と解説
このテキストでは、『枕草子』から「にくきもの」の一節(にくきもの。急ぐことあるをりに来て~)の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。2回にわたってお送りしていますが、このテキストはその1回目です。
※つづき:「ものうらやみし、身の上嘆き~」の現代語訳と解説
枕草子とは
枕草子は清少納言によって書かれたとされる随筆です。清少納言は平安時代中期の作家・歌人で、一条天皇の皇后であった中宮定子に仕えました。ちなみに枕草子は、兼好法師の『徒然草』、鴨長明の『方丈記』と並んで「古典日本三大随筆」と言われています。
原文
にくきもの。急ぐことあるをりに来て、長言するまらうと。あなづりやすき人ならば、
「後に。」
とても、やりつべけれど、さすがに心はづかしき人、いとにくく、むつかし。硯に髪の入りて、すられたる。また、墨の中に、石のきしきしときしみ鳴りたる。
にはかにわづらふ人のあるに、(※1)験者もとむるに、例ある所になくて、外に尋ねありくほど、いと待ち遠に久しきに、からうじて待ちつけて、よろこびながら加持せさするに、このころ物怪にあづかりて困じにける(※2)にや、居るままにすなはち、ねぶり声なる、いとにくし。
なでふことなき人の、笑がちにて、ものいたう言ひたる。
火桶の火、炭櫃(すびつ)などに、手のうらうち返しうち返しおしのべなどして、あぶりをる者。いつか若やかなる人など、さはしたりし。老いばみたる者こそ、火桶のはたに足をさへもたげて、もの言ふままに押しすりなどはす(※3)らめ。さやうの者は、人のもとに来て、居(※4)むとする所を、まづ扇してこなたかなたあふぎちらして、塵はき捨て、居もさだまらずひろめきて、狩衣の前巻き入れても居る(※5)べし。かかることは、いふかひなき者の際にやと思へど、すこしよろしき者の、式部の大夫などいひしが、せしなり。
また、酒飲みてあめき、口を探り、鬚ある者はそれをなで、盃、異人に取らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。また飲め、と言ふなるべし、身ぶるひをし、頭ふり、口わきをさへ引き垂れて、童の、こう殿にまゐりて、など謡ふやうにする。それはしも、まことによき人のしたまひしを見しかば、心づきなしと思ふなり。
つづき:「ものうらやみし、身の上嘆き~」
現代語訳
しゃくに障るもの。急用がある時にやって来て、長話をする客。容易に見下げることができる人ならば、
「後で。」
と言ってでも、帰してしまうことができそうだが、そうはいってもやはり(相手が立派で)気がひける人であれば、(さすがにそうもできず)ひどくしゃくに障り、不快だ。硯に髪が入ったまま、(墨が)すられたの(はしゃくに障る)。また、墨の中に、石が(交じって)きしきしときしんで音をたてなっているの(もしゃくに障る。)
急に病気で苦しむ人がいるので、(祈祷を行う)修験者を探すのだが、(修験者が)普段いる所にはいなく、別の所をあちこち探してまわるうちに、(早く見つからないかと)たいそう待ち遠しく時間がかかっていたところ、(修験者を)やっとのことで待ち受けて、喜びながら加持祈祷をさせると、最近もののけに関わって疲れてしまったのであろうか、座るやいなやすぐに、眠たげな声であるのは、しゃくに障る。
たいしたこともない人が、にやにやと笑って(※もしくは、得意気に)、おしゃべりをしまくっている(ことはしゃくに障る)。
火桶の火やいろりなどに、手のひらをしきりにひっくり返して、(手のしわを)押しのばしなどして、あぶっている者(はしゃくに障る)。いつ若々しい人などが、そんな(はしたない)ことをしたか、いや、していない。年寄りじみた者は、火桶の端に足までも持ち上げて、話をしながら(足を)こすったりなどしているのだろう。そのような者は、人が集まっているところにやってきて、座ろうとする所を、真っ先に扇であちらこちらやたらにあおいで、ほこりをはき捨てて、座った姿勢も落ち着きなく動き、(本来前にのばしておくはずの)狩衣の垂れを(膝の下に)巻き込んで座ったりもするだろう。のようなことは取るに足らない身分の者がするのであろうが、いくらかまあよい(身分の)者で、式部の大夫などと言うのが、やったのである。
また、酒を飲んでわめき、口(の辺り)を触れて確かめ、髭のある者はそれをなで、杯を、他人に与えるような様子は、とてもしゃくに障ると感じる。もっと飲め、ということであろうか、身震いをして、頭をふり、口の端までを(への字に)垂れ下げて、子どもが、こう殿にまゐりて、などと歌うようにする。それはこともあろうに、とても身分が高くていらっしゃる方がやられていたのを見たので、気に食わないと思うのだ。
つづき:「ものうらやみし、身の上嘆き~」
■次ページ:単語と文法解説
1ページ
|
前ページ
|
1/2 |
次ページ |
このテキストを評価してください。
役に立った
|
う~ん・・・
|
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。 |
|
枕草子『にくきもの』(ものうらやみし、身の上嘆き~)現代語訳・口語訳と解説
>
建礼門院右京大夫集 『悲報到来(なべて世のはかなきことを)』の現代語訳
>
『憶良らは今は罷らむ子泣くらむ それその母も我を待つらむそ』わかりやすい現代語訳と品詞分解
>
万葉集「春柳かづらに折りし梅の花誰か浮かべし酒杯の上に」の現代語訳と解説
>
『わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れくるかも』現代語訳と解説・品詞分解
>
高校古文『筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに』わかりやすい現代語訳と品詞分解
>
最近見たテキスト
枕草子『にくきもの(急ぐことあるをりに来て~)』わかりやすい現代語訳と解説
10分前以内
|
>
|
注目テキスト