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宇治拾遺物語「留志長者のこと」のわかりやすい現代語訳と解説

著者名: 走るメロス
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宇治拾遺物語『留志長者のこと』の原文・現代語訳と解説

このテキストでは、宇治拾遺物語の一節「留志長者のこと」(今は昔、天竺に、留志長者とて〜)の現代語訳・口語訳とその解説をしています。


宇治拾遺物語とは

宇治拾遺物語は13世紀前半ごろに成立した説話物語集です。編者は未詳です。



原文・本文

 今は昔、天竺に、留志長者とて、世にたのしき長者ありけり。おほかた、蔵もいくらともなく持ち、たのしきが、心の口惜しく、妻子にも、まして従者にも、物食はせ、着することなし。おのれ、物の欲しければ、人にも見せず、かくして食ふほどに、物の飽か多く欲しかりければ、妻に言ふやう、
「飯、酒、くだものどもなど、おほらかにして賜べ。我につきて物惜しまする慳貪(けんどん)の神まつらむ。」

と言へば、
「物惜しむ心失はむとする、よき事。」

喜びて、色々に調じて、おほらかに取らせければ、受け取りて、人も見ざらむ所に行きてよく食はむと思ひて、行器に入れ、瓶子に酒入れなどして、持ちて出でぬ。

この木のもとには鳥あり、かしこには雀あり、など選りて、人離(か)れたる山の中の木の陰に、鳥獣もなき所にて、ひとり食ひゐたる心の楽しさ、物にもずして、誦ずるやう、
「今曠野中食飯飲酒、大安楽獨過毘沙門天勝天帝釈。」

この心は、
「今日人なき所に一人食ひて、物を食ひ、酒を飲む。安楽なること、毘沙門、帝釈にもまさりたり。」

と言ひけるを、帝釈、きと御覧じてけり。

※つづき:憎しと思しけるにや、留志長者が形に化し給ひて〜




現代語訳・口語訳

今となっては昔のことですが、天竺に、留志長者といって、非常に裕福な長者がいました。だいたい、蔵も数えきれないほど多く持ち、裕福なのですが、性分が残念で、妻子にも、いうまでもなく従者にも、食事をとらせたり、(衣を)着せることがありません。自分は、食べ物が欲しいと、誰にも見せることなく、隠して食べるうちに、食べ物に満足することなくたくさん欲しくなったので、妻に言うことには、
「飯、酒、果物などを、たくさんお与えなさい。私に取り憑いて物を惜しませる強欲の神をまつるつもりだ。」

と言うので、
「物を惜しいと思う心をなくそうとするのは、よい事です。」

と喜んで、いろいろとこしらえて、たくさん与えたところ、(留志長者)は誰も見ないようなところに行って存分に食べようと思って、(食べ物を)容器に入れて、徳利に酒を入れなどして、持って出かけました。

この木のもとには鳥がいる、あそこには雀がいる、などと(場所を)選りすぐって、人から離れた山の中の木陰にで、鳥や獣もいないところで、一人で食べている気持ちの楽しさは、何事にも例えようもなく、口ずさむことには、
「今曠野中食飯飲酒、大安楽獨過毘沙門天勝天帝釈。」

この意味は、
「今日、人がいないところに一人で腰を下ろし、物を食べ、酒を飲む。安楽であることは、毘沙門天や、帝釈天にもまさっている。」

と(という意味ですが、留志長者がそう)言ったのを、帝釈天が、しっかりとご覧になりました。

※つづき:憎しと思しけるにや、留志長者が形に化し給ひて〜


品詞分解

「今は昔、天竺に、留志長者とて〜」の品詞分解


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