宇治拾遺物語『児のそら寝』の原文・現代語訳と解説
このテキストでは
宇治拾遺物語の一節「
児(ちご)のそら寝」(
これも今は昔、比叡の山に児ありけり~)の原文、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては「稚児の
(※1)そら寝」と題されるものや、内容が異なる場合があります。
宇治拾遺物語とは
宇治拾遺物語は13世紀前半ごろに成立した説話物語集です。編者は未詳です。
原文
これも今は昔、比叡の山に
(※2)児ありけり。僧たち、宵の
つれづれに、
「いざ、かひもちひせむ。」
と言ひけるを、この児、
心寄せに聞きけり。
さりとて、
しいださむを待ちて
寝ざらむも、
わろかりなむと思ひて、片方に
寄りて、寝たるよしにて、
出で来るを待ちけるに、
すでにしいだしたるさまにて、
(※3)ひしめき合ひたり。
この児、
定めて驚かさ(※4)むずらむと待ちゐたるに、僧の、
と言ふを、
うれしとは思へども、
ただ一度に
いらへむも、 待ちけるかともぞ思ふとて、今一声
呼ばれていらへむと、
念じて寝たるほどに、
「や、
(※5)な起こしたてまつりそ。
幼き人は寝入りたまひにけり。」
と言ふ声のしければ、あな
わびしと思ひて、
今一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、
ひしひしとただ
(※6)食ひに食ふ音のしければ、
ずちなくて、無期ののちに、
「えい。」
といらへたりければ、僧たち笑ふこと
かぎりなし。
現代語訳(口語訳)
これも今となっては昔のことですが、比叡山の延暦寺に幼い子どもがいました。(寺の)僧たちが、宵の手持ち無沙汰なときに、
「さあ、ぼた餅を作ろう。」
と言ったのを、この子どもは、期待して聞きました。だからといって、作り上げるのを待って寝ずにいるのも、きっとよくないだろうと思って、(部屋の)片隅に寄って寝たふりをして、出来上がるのを待っていたところ、もう作り上げたようで、(僧たちが)一緒に騒ぎ立てています。
この子どもは、きっと(僧たちが自分を)起こすだろうと(思って)待ち続けていたところ、僧が
「もしもし。目をお覚まし下さい。」
と言うのを、嬉しいとは思うのですが、すぐ一度で返事をするのも、(呼ばれるのを)待っていたと(僧たちが)思うかもと(考えて)、もう一度呼ばれて返事をしようと(思って)、我慢して寝ているうちに、
「これ、お起こし申し上げるな。幼い人は寝入ってしまわれたよ。」
という声がしたので、ああ、困ったことだと思って、もう一度起こしてくれよと、思いながら寝て聞き耳をたてると、(僧たちが餅を)むしゃむしゃと、ただどんどん食べる音がしたので、(子どもは)どうしようもなくて、(呼ばれて)長い時間ののちに
「はい。」
と返事をしたので、(これを聞いて)僧たちは笑うことこの上ありません。
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