『中納言参りたまひて』
このテキストでは、
清少納言が書いた
枕草子の一節「
中納言参りたまひて」の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。敬語の向きについては最後に記しています。
※清少納言は平安時代中期の作家・歌人です。一条天皇の皇后であった中宮定子に仕えました。
この物語の要約・おもしろさ
この物語には主語の無い敬語が多く、しかも、敬語の向きや文意が読み取りにくいので注意が必要です。この物語は、藤原隆家が清少納言たちに「珍しい骨を手に入れた」と自慢をしにくるところから始まります。その話を聞いた清少納言は「これまで見たことのない素晴らしい骨だなんて言ってるけど、本当はくらげの骨なんじゃないの?(くらげに骨なんかありませんけど)」と気の利いたことを藤原隆家に言いました。
すると藤原隆家は「そのコメントもらった!」と言って清少納言のコメントを自分のものにしてしまいました。さらっと口にしたことが目上の人に感心されたという自慢話を書くようできまりが悪いので、本当はそのことを隠しておきたいのだけど、人々がきちんと書いて記録しておくようにというので、清少納言は悩んでいるのです。
原文
(※1)中納言(※2)参りたまひて、御扇
(※3)奉らせたまふに、
「隆家
(※4)こそいみじき骨は得てはべれ。それをはらせて
(※5)参らせむとするに、
(※6)おぼろけの紙は
(※7)え張るまじければ、
(※8)求めはべるなり。」
と
(※9)申したまふ。
と
(※10)問ひ聞こえさせたまへば、
と、
(※14)言高くのたまへば、
「
さては、扇のにはあらで、海月の
(※15)ななり。」
と
(※16)聞こゆれば、
「これは隆家が言にしてむ。」
とて
(※17)笑ひたまふ。
(※18)かやうのことこそは、
かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
と言へば、
いかがはせむ。
現代語訳(口語訳)
中納言が参上なさって、(中宮定子様に)扇を献上なさるときに、
「(私)隆家は素晴らしい骨を手に入れております。それに(紙を)張らせて(中宮様に)さしあげようと思うのですが、ありきたりな紙を張ることはできないので、(それ相応の紙を)探しているのです。」
と申し上げなさいます。(中宮様が)
「(その骨は)どのような物なのですか。」
とお尋ね申し上げなさると、
(中納言は)
「すべてが素晴らしいです。『まったく今まで見たことのない骨の様子です。』と人々が申します。本当にこれほどの(骨)は見たことがありません。」
と声を大きくおっしゃるので、(私が)
「それでは、扇の(骨)ではなくて、くらげの(骨)のようですね。」
と申し上げると、(中納言は)
「これは隆家が言ったことにしてしまおう。」
といってお笑いになります。
このようなことは、(書かないで)きまりが悪いことの中に入れておくべきですが、
「1つも書き漏らしてはいけない。」
と(周囲の人々が私に)言うので、どうしたものだろうか、いやどうしようもない(ので書き記しておきます)。
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