おとす/落とす/貶す
このテキストでは、サ行四段活用の動詞「
おとす/落とす/貶す」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
サ行四段活用
未然形 | おとさ |
連用形 | おとし |
終止形 | おとす |
連体形 | おとす |
已然形 | おとせ |
命令形 | おとせ |
■意味1:他動詞
落下させる。
[出典]:宇治拾遺物語
「口ひきける男、あしくひきて聖の馬を堀へ落としてげり。」
[訳]:馬の口を引いていた男が、下手に引いたので、高僧の(乗った)馬を堀へ落としてしまった。
■意味2:他動詞
(花や葉を)
散らす。
■意味3:他動詞
勢いよく下りさせる。
[出典]: 坂落 平家物語
「まづ三十騎ばかり、まっさきかけて落とされけり。」
[訳]:最初に三十騎ほど、(その中でも義経が)先頭を駈けて(馬を)勢い良くお下ろしになる。
■意味4:他動詞
見落とす、漏らす。
[出典]:
中納言参りたまひて 枕草子
「かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、『一つな
落としそ。』と言へば、いかがはせむ。 」
[訳]:このようなことは、(書かないで)きまりが悪いことの中に入れておくべきですが、 「1つでも書き
漏らしてはいけない。」と(周囲の人々が私に)言うので、どうしたものだろうか、いやどうしようもない(ので書き記しておきます)。
■意味5:他動詞
なくす、紛失する。
[出典]:若菜下 源氏物語
「昨夜のかはほりをおとして。これは風ぬるくこそありけれ。」
[訳]:昨夜の扇をなくして。これでは風がなま温いな。
■意味6:他動詞
逃がす、こっそり逃げさせる。
[出典]:太平記
「これは謀反の輩を落とさじがための謀なり。」
[訳]:これは謀反のやからを逃がさないための策略である。
■意味7:他動詞
劣った状態にする、劣った扱いをする。
[出典]:少女 源氏物語
「いま一方の御けしきも、をさをさおとし給はで...」
[訳]:もうお一方のご様子も、ほとんど劣った扱いをなさらないで...
■意味8:他動詞
侮る、見下げる、軽く見る。
[出典]:若菜下 源氏物語
「人に落とされたまへる御ありさまとて...」
[訳]:人に侮られていらっしゃる御様子だからといって...
■意味9:他動詞
調子を下げる。
[出典]:若菜下 源氏物語
「琵琶を取り寄せて「衣がへ」をひとわたり落として...」
[訳]:琵琶を手元にたぐり寄せて「衣がへ」を一段調子を下げて...
■意味10:他動詞
攻め取る、陥落させる。
[出典]:太平記
「この城を大手より攻めば、人のみ討たれて落とすことありがたし。」
[訳]:この城を正面から攻めても、人だけが討たれて(城を)陥落させることはむずかしい。