奥の細道『立石寺』
このテキストでは、
奥の細道の中の「
立石寺」の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。」で始まる一節で広く知られている奥の細道は、松尾芭蕉によって書かれました。江戸を出発し、東北地方、北陸地方を巡り岐阜の大垣までの道中の出来事を記した紀行文です。
タイトルにもなっている立石寺は、山形県にあるお寺です。松尾芭蕉は江戸を出発した後、現在の栃木、福島、宮城と北上し、そこから岩手県南部の平泉を経由して山形に入りました。
(立石寺)
原文
山形領に立石寺といふ山寺
あり。慈覚大師の開基にして、
ことに清閑の地なり。
一見すべきよし、人々の
勧むるに
(※1)よつて、尾花沢より
(※2)とつて返し、その間七
(※3)里ばかりなり。
日
いまだ暮れず。ふもとの
坊に宿借りおきて、山上の堂に
登る。岩に巌を
重ねて山とし、松柏年
ふり、土石
老いて苔なめらかに、岩上の院々扉を閉ぢて、物の音
聞こえず。
(※4)岸を巡り岩を
はひて、仏閣を
拝し、佳景
寂寞として心澄みゆくのみ
おぼゆ。
閑かさや岩にしみ入る蝉の声
現代語訳(口語訳)
山形領内に、立石寺という山寺がある。慈覚大師が開いた寺で、とりわけ清らかで物静かな土地である。「一度は見ておいたほうが良い」と、人々が勧めるので、尾花沢から引き返し(てきたのであるが)、その間(の距離)は七里ほどである。
(到着時には)日はまだ暮れていない。山のふもとの宿坊に宿を借りて、山上にある堂に登る。岩に巌が重なって山となり、松や柏の木は年月が経ち、土や石も年が経って(表面を覆う)苔がなめらかであり、岩の上に建てられたいくつもの寺院の扉は閉じられていて、物音ひとつ聞こえない。崖のふちをまわり岩をはうようにして進み、仏閣を拝んだのだが、すばらしい景色はひっそりと静まりかえっていて、心が澄んでいくことが感じられるばかりである。
辺りは静けさに静まり返っている。(あまりにも静かすぎるので)そんな中で聞こえてくるセミの鳴き声も、岩にしみいっていくようだ
品詞分解
※品詞分解:
『奥の細道 立石寺』の品詞分解
単語
(※1)よつて | ラ行四段活用「よる」の連用形「より」の促音便+接続助詞「て」 |
(※2)とつて | タ行四段活用「とる」の連用形「とり」の促音便+接続助詞「て」 |
(※3)里 | 現在の1里は約3.9km |
(※4)岸 | 岩や石の切り立った所 |