竹取物語『蓬莱の玉の枝』その5
このテキストでは、
竹取物語の中の「
蓬莱の玉の枝」の現代語訳と解説を記しています。少し長いので、5回にわけて説明をしていますが、このテキストはその最終回です。
前回のテキスト:
竹取物語『蓬莱の玉の枝』
原文
かかるほどに、男ども六人、つらねて、庭にいで来たり。一人の男、文挟みに文を
はさみて、申す、
「内匠寮の工匠、漢部内麻呂申さく、玉の木を作り仕うまつりしこと、五穀を断ちて、千余日に力をつくしたること、すくなからず。しかるに、禄いまだ賜はらず。これを賜ひて、わろき家子に賜はせむ」
といひて、ささげたり。たけとりの翁、この工匠らが申すことは何事ぞと
かたぶきをり。皇子は、我にもあらぬ気色にて、肝消えゐたまへり。
これを、かぐや姫聞きて、
「この奉る文を取れ」
といひて、見れば、文に申しけるやう、
皇子の君、千日、
いやしき工匠らと、
もろともに、同じ所に隠れゐたまひて、
かしこき玉の枝を作らせたまひて、
官も賜はむと仰せたまひき。これをこのごろ案ずるに、御使とおはしますべきかぐや姫の要じたまふべきなりけりと、
承りて。この宮より賜はらむ。
と申して、
「賜はるべきなり」
といふを、聞きて、かぐや姫、暮るるままに思ひわびつる心地、笑ひさかえて、翁を呼びとりていふやう、
「まこと蓬莱の木かとこそ思ひつれ。かくあさましきそらごとにてありければ、はや返したまへ」
といへば、翁答ふ、
「さだかに作らせたる物と聞きつれば、返さむこと、いとやすし」
とうなづきおり。かぐや姫の心ゆきはてて、ありつる歌の返し、
まことかと聞きて見つれば言の葉を かざれる玉の枝にぞありける
といひて、玉の枝も返しつ。たけとりの翁、さばかり語らひつるが、さすがにおぼえて眠りをり。皇子は、立つも
はした、
ゐるもはしたにて、ゐたまへり。日の暮れぬれば、すべりいでたまひぬ。
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