徒然草『今日はそのことをなさんと思へど』原文・現代語訳と解説
このテキストでは、
徒然草の一節「
今日はそのことをなさんと思へど」の「
今日はその事をなさんと思へど、あらぬ急ぎ先づ出で来て紛れ暮し〜」から始まる部分の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
徒然草とは
徒然草は
兼好法師によって書かれたとされる随筆です。
清少納言の『
枕草子』、
鴨長明の『
方丈記』と並んで「
古典日本三大随筆」と言われています。
原文
今日はその事を
なさんと思へど、
あらぬ急ぎ先づ
出で来て
紛れ暮らし、待つ人は
障りありて、
頼めぬ人は来たり。頼みたる方の事は
違ひて、
思ひ寄らぬ道ばかりは
叶ひぬ。
煩はしかりつる事は
ことなくて、
易かるべき事はいと
心苦し。日々に過ぎ行くさま、
かねて思ひつるには
似ず。一年の中も
(※1)かくの如し。一生の間もまた
(※2)しかなり。
かねての
あらまし、皆違ひ行くかと思ふに、
おのづから、違はぬ事もあれば、
いよいよ、物は定め
難し。不定と
心得ぬるのみ、実にて違はず。
現代語訳(口語訳)
今日はそのことをしようと思うのだが、思いもよらない急用が先にできて(それに)気を取られて一日を過ごし、待ち人は差し支えがあって(来ず)、(来るのを)期待させない人は来てしまう。あてにする方面のことは(期待と)食い違い、考えが及ばない方面のことだけが思い通りになる。面倒だと思っていたことが(意外と)容易で、簡単なはずのことは(うまくいかず)とてもつらい。(このようにして)毎日が過ぎていく様は、前もって考えていたこととは異なる。1年の間もこのようである。一生の間もまたその通りである。
前からの予測が、すべて(予測と)一致しないでいくのかと思うと(そうとも限らず)、たまには、(予測と)一致することもあるので、ますます、物事は決めることが難しい。(物事はすべて)定め難いことだと理解することが、真実であり間違いがない。
■次ページ:品詞分解と単語解説