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沙石集『三文にて歯二つ』わかりやすい現代語訳と文法解説 |
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著作名:
走るメロス
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このテキストでは、沙石集の一節「三文にて歯二つ」(南都に、歯取る唐人ありき〜)の現代語訳・口語訳とその解説を記しいます。書籍によっては「虫歯を抜く代価」や「歯取ること」などと題するものもあるようです。
沙石集は、鎌倉時代中期に無住(むじゅう)によって書かれた仏教説話集です。
(※1)南都に、歯取る唐人ありき。ある(※2)在家人の、慳貪にして(※3)利養を先とし、事にふれて商ひ心のみありて、(※4)徳もありけるが、
「虫の食ひたる歯をとら(※5)せむ。」
とて、唐人がもとに行きぬ。歯一つ取るには、銭二文に定めたるを、
「一文にて取りてたべ。」
といふ。少分の事なれば、ただも取るべけれども、心様の憎さに、
「ふつと一文にては取らじ。」
といふ。やや久しく論ずる程に、(※6)おほかた取らざりければ、
「さらば三文にて歯二つ取り給へ。」
とて、虫も食はぬに良き歯を取り添へて二つ取らせて、三文取らせつ。心には利分とこそ思ひ(※7)けめども、疵なき歯を失ひぬる、大きなる損なり。これは申すに及ばず、大きに愚かなる事、をこがましきわざなり。
奈良に、歯をとる(ことを職業とする)中国人がいました。ある在家の人で、欲深くけちで私利私欲を優先し、何かにつけて商売のことばかり考え、財産もあったのが、
「虫が食った歯をとらせよう。」
と、中国人のもとへと行きました。(中国人は)歯を一つとるには、二文(の料金)だと決めていたのを、(この男は)
「一文でとってください。」
と言います。少額のことなので、ただで抜いてもよいのですが、(その男の)心のあり方が憎らしいので、
「決して一文ではとらない。」
と言います。かなり長時間言い争っていましたが、いっこうに(歯を)とらなかったので
「それならば三文で歯を二つとってください。」
と言って、虫も食わないのに良好な歯を付け加えて二つとらせて、三文与えました。男の心は得をしたと思ったのでしょうが、痛んでいない歯を失ったことは、大きな損失です。これは申し上げるまでもなく、大変おろかなことで、馬鹿らしい行いです。
※品詞分解:『三文にて歯二つ』の品詞分解
(※1)南都 | 奈良のこと |
(※2)在家 | 出家しないで世の中で普通の生活をしながら仏教を信じること、またはその人 |
(※3)利養 | 私利私欲、財を得ようと私利私欲をむさぼること |
(※4)徳 | ここでは「財産/富」の意味で訳す |
(※5)せむ | 使役の助動詞「す」の未然形「せ」+意志を表す助動詞「む」の終止形 |
(※6)おほかた~打消し | いっこうに~ない |
(※7)けめ | 過去推量の助動詞「けむ」の已然形 |
・沙石集『歌ゆえに命を失ふ事』
・沙石集『いみじき成敗/正直の徳』
・沙石集『ねずみの婿とり』
・沙石集『花盗人の歌』
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