はじめに
このテキストでは、
清少納言が書いた
枕草子の中から「ありがたきもの」の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
※「ありがたきもの」と聞いて、
現代語での「ありがたいもの」と解釈しないように注意しましょう。古典で「ありがたし」は「
めったにないもの」の意味です。
※清少納言は平安時代中期の作家・歌人です。一条天皇の皇后であった中宮定子に仕えました。そして枕草子は、兼好法師の『徒然草』、鴨長明の『方丈記』と並んで「古典日本三大随筆」と言われています。
原文
(※1)ありがたきもの。
(※2)舅に
ほめらるる婿。また、
(※3)姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜。主
(※4)そしらぬ従者。
(※5)つゆのくせなき。
(※6)かたち心ありさま
すぐれ、世に
ふる程、
いささかの
(※7)疵(きず)なき。
同じ所に住む人の、
かたみに恥ぢかはし、
いささかの
(※8)ひまなく用意したりと思ふが、
つひに見えぬこそ
(※9)かたけれ。物語、集など書き写すに、本に墨つけぬ。
よき草子などは
いみじう心して書けど、必ず
(※10)こそ汚げになるめれ。
男女をば言はじ、女どちも、
契り深くて
語らふ人の、末までなかよき人、
難し。
現代語訳
めったにないもの。舅にほめられる婿。また、姑に思われるお嫁さん。毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人のことを悪く言わない従者。少しも癖のない(人)。容姿や気立て、態度が秀でており、世の中を過ごす間に、少しも欠点のない人。
同じところに(宮仕えして)住む人で、互いに気兼ねして、ほんの少しの油断もなく心づかいしていると思う人が、最後まで(隙を人に)見られないということはめったにない。物語や説話集などを書き写すのに、本に墨をつけないこと(もめったにない)。価値のある本などのときには大変注意して書くのだが、必ず汚らしくなってしまうようだ。
男女(の仲)については言うまでもないが、女同士でも、約束を固くして親しく付き合っている人で、最後まで仲の良い人というのは、めったにない。
■次ページ:品詞分解・単語・文法解説