百人一首(98)従二位家隆/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける
このテキストでは、
百人一首に収録されている歌「
風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける」の現代語訳・口語訳と解説(掛詞・歌枕・係り結び・本歌取りなど)、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に、新勅撰和歌集にも収録されています。
百人一首とは
百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・
藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、
小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。
暗記に役立つ百人一首一覧
以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。
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暗記に役立つ百人一首一覧
原文
風そよぐ (※1)ならの小川の 夕暮れは (※2)みそぎ(※3)ぞ夏の しるしなりける
ひらがなでの読み方
かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
現代語訳
風に吹かれて楢の葉がそよそよと音を立てている。ならの小川の夕暮れは(もうすっかり秋の気配であるけれど、この小川で行われている)禊は、まだ夏である証拠であることよ。
解説・鑑賞のしかた
この歌の詠み手は、鎌倉時代初期の公卿、歌人
藤原家隆(ふじわら の いえたか/かりゅう)です。百人一首では
従二位家隆(じゅにいいえたか)と表記されます。
新勅撰和歌集の詞書によると、寛喜元年女御入内屏風に詠まれた歌とされています。どういうことかというと、藤原道家の娘(竴子/しゅんし)が後堀河天皇に入内するにときに、屏風絵が作られました。これが寛喜元年女御入内屏風です。この屏風には年中行事が月ごとに描かれており、その中の六月(水無月)を担当したのが藤原家隆であったわけです。
暑い夏が終わり、だんだんと秋の気配を感じ始めるころに、夏を名残り惜しんで詠んだ歌です。
主な技法・単語・文法解説
■単語
(※1)ならの小川 | 上加茂神社の中を流れる御手洗川のこと。 |
(※2)みそぎ | 身体を川の水で清めること。夏の季語。ここでは半年間のけがれをはらう行事である「六月祓(みなづきはらえ)」のことを指している。 |
■(※1)、歌枕
上記のように「ならの小川」は上加茂神社の境内を流れる御手洗川のことを指す歌枕。歌に詠み込まれている名所のことを歌枕という。以下に例を記す。
【逢坂の関】
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関
【生駒山】
君があたり見つつを居らむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも
■(※1)掛詞
「ならの小川」の「なら」は、「神社の境内に立つ楢の木がそよそよと風にゆれる様子」と「境内を流れるならの小川(御手洗川)」の掛詞。
※「掛詞」とは、ひとつの言葉に2つ以上の意味を重ねて表現内容を豊かにする技法のこと。
■(※3)係り結び
(※3)ぞ夏のしるしなりける | 「ぞ」(強意の係助詞)⇒「ける」(詠嘆の助動詞「けり」の連体形)が係り結び。 |
■本歌取り
この歌は、次の2首をもとにしています。
みそぎする ならの小川の 川風に 祈りぞわたる 下に絶えじと
夏山の 楢の葉そよぐ 夕暮れは ことしも秋の 心地こそすれ
すでにある歌をオマージュに新しい歌を詠む技法を
本歌取りといいます。
■句切れ
なし。
品詞分解
※名詞は省略しています。
風 | ー |
そよぐ | 画業四段活用「そよぐ」の連体形 |
ならの小川 | ー |
の | 格助詞 |
夕暮れ | ー |
は | 係助詞 |
みそぎ | ー |
ぞ | 係助詞・係り結び |
夏 | ー |
の | 格助詞 |
しるし | ー |
なり | 断定の助動詞「なり」の連用形 |
ける | 詠嘆の助動詞「けり」の連体形・係り結び |
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。