百人一首(25)三条右大臣/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解
名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで 来るよしもがな
このテキストでは、
百人一首に収録されている歌「
名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られで来るよしもがな」の現代語訳・口語訳と解説(序詞・掛詞・歌枕など)、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に、『後撰和歌集』にも収録されています。
百人一首とは
百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・
藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。
原文
(※1)名にし負はば (※2)逢坂山の (※3)さねかづら 人に知られで (※4)来るよしもがな
ひらがなでの読み方
なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな
現代語訳
(逢坂山のさねかずらと言って、「逢って寝る」という)名を持っているのなら、そのさねかずらを手繰るように、人には知られないで(あなたのもとへ)会いに来る方法があればなぁ。
解説・鑑賞のしかた
この歌の詠み手は、平安時代の歌人
藤原定方(ふじわら の さだかた)です。百人一首には三条右大臣(さんじょう の うだいじん)の名で収録されています。
「さねかづら」とは、古くから日本人になじみ深い植物です。「さ寝ず」や「来る」、「後も逢はむ」といった言葉にかかる枕詞として、多くの和歌に詠まれてきました。「
さ寝」とは「男女が一緒に寝ること」を意味し、「後も逢はむ」の「
逢ふ」は「出会う、結婚する」を意味することから、自然と恋の歌が連想されます。
「逢坂山に生えているさねかずらのつるを手繰り寄せるように、誰にも知られないであなたと連絡をとる方法がほしい」という内容のこの歌は、女性に贈った歌だといわれています。熱烈なラブレターだったと言えるでしょう。
主な技法・単語・文法解説
■単語
(※1)名にし負ふ | 「名を持つ」、「~で有名である」などと訳す |
(※2)逢坂山 | 現在の滋賀県大津市の南にある山。「出会い」を連想させるとしてよく用いられる「逢坂の関」があった場所 |
(※3)さねかづら | 古くから日本人になじみ深い植物。下記のように、この歌では掛詞となっている |
(※4)まにまに | 「(神や天皇などの)思いのままに」、「~に従って」などと訳す |
■(※2)、(※3)、(※4)掛詞
「掛詞」とは、ひとつの言葉に2つ以上の意味を重ねて表現内容を豊かにする技法のこと。この歌では「逢坂山」が「
逢ふ」の、「さねかづら」が「
さ寝」と、「来る」が「繰る」との掛詞になっている。
■(※3)縁語
「さねかづら」の「さね」(
さ寝)が「
逢ふ」、「来る」の縁語。
※「縁語(えんご)」とは、和歌の修辞技法のひとつ。ひとつの和歌にある言葉と、意味や音声の上で関連のある言葉を用いて表現に幅をもたせる技法。
■(※2)歌枕
「逢坂山」が歌枕。歌に詠み込まれている名所のことを歌枕という。以下に例を記す。
【逢坂の関】
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関
【生駒山】
君があたり見つつを居らむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも
■序詞
第三句までが、「来る」を導く序詞。
■句切れ
句切れなし。
品詞分解
※名詞は省略しています。
名 | ー |
に | 格助詞 |
し | 副助詞 |
負は | ハ行四段活用「おふ」の未然形 |
ば | 接続助詞 |
逢坂山 | ー |
の | 格助詞 |
さねかづら | ー |
人 | ー |
に | 格助詞 |
知ら | ラ行四段活用「しる」の未然形 |
れ | 受身の助動詞「る」の未然形 |
で | 打消の接続助詞 |
来る | カ行変格活用「く」の連体形 |
よし | ー |
もがな | 願望の終助詞 |
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。