百人一首(2)持統天皇/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方
春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
このテキストでは、
(小倉)百人一首に収録されている歌「
春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」の現代語訳・口語訳と解説(枕詞、句切れなど)、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に
新古今和歌集にも収録されています。
原歌
原歌は万葉集に収録されている以下の歌です。
百人一首とは
百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・
藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、
小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。
暗記に役立つ百人一首一覧
以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。
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暗記に役立つ百人一首一覧
原文
春過ぎて 夏来に(※1)けらし (※2)白妙の 衣ほす(※3)てふ 天の香具山
ひらがなでの読み方
はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすちょう あまのかぐやま
現代語訳
春が過ぎて夏がやって来たらしいです。(夏になると)真っ白な衣を(干して)乾かすという天の香具山に(真っ白な衣が干されています)。
解説・鑑賞のしかた
この歌の詠み手は、飛鳥時代の
持統天皇(じとうてんのう)です。持統天皇は、大化の改新を行った中大兄皇子(天智天皇)の娘です。
白妙とは、コウゾの木の繊維で織った白い布のことを言います。初夏の新緑と白のコントラストを感じることができる歌です。「白い布」が何を指しているのかは様々な説がありますが、ここでは、田植えを担当した女性たちの衣装が白い布であった説を紹介します。
田植えをする女性のことを「早乙女(さおとめ)」と言います。田植えは神に捧げる重要な儀式とされ、正装(これの一部が白い布)を着用して行われました。地域によって時期は異なりますが、田植えは一般的に4月~6月に行われます。このことから「早乙女」は夏を表す季語とされます。田植えを終えた早乙女たちの白い布が香久山に干されている様を見て、持統天皇ら御所の人たちは、夏の到来を感じ取っていたとするのがこの説です。
ちなみに香具山とは、持統天皇が政治を取り仕切っていた藤原京に向かって東に見える山のことで、畝傍山、耳成山とともに大和三山の1つとされています。天から人が降りてきたという伝説があったことから天の香具山と呼ばれています。
香具山
晴れた日に、新緑豊かなこの山に白い布が干してある、とても夏らしい風景ですね。
単語・文法解説
■単語
(※1)けらし | 過去推量・過去推定の助動詞。「~たらしい」と訳す。 |
(※3)てふ | 「~といふ」(格助詞「と」+ハ行四段活用「いふ」)が変化したもの。「~と言う」と訳す。 |
■(※2)枕詞
白妙で衣服を作っていたことから、「白妙の」は「衣」の枕詞として用いられる。
■句切れ
二句切れ。
品詞分解
※名詞は省略しています。
春 | ー |
過ぎ | ガ行上二段活用「すぐ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
夏 | ー |
来 | カ行変格活用「く」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けらし | 過去推量・過去推定の助動詞「けらし」の終止形 |
白妙の | 枕詞 |
衣 | ー |
干す | サ行四段活用「ほす」の終止形 |
てふ | 連語。「~といふ」(格助詞「と」+ハ行四段活用「いふ」)が変化したもの。 |
天の香具山 | ー |
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。