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宇治拾遺物語『袴垂、保昌に会ふこと(袴垂と保昌 )』のわかりやすい現代語訳と解説 |
著作名:
走るメロス
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宇治拾遺物語『袴垂、保昌に会ふこと』原文・現代語訳と解説
このテキストでは宇治拾遺物語の一節『袴垂、保昌に会ふこと』の現代語訳とその解説を記しています。書籍によっては、「袴垂と保昌 」、「袴垂、保昌に合ふ事」と題されているものもあるようです。
宇治拾遺物語とは
宇治拾遺物語は13世紀前半ごろに成立した説話物語集です。編者は未詳です。
本文(原文)
昔、袴垂とて、いみじき盗人の大将軍ありけり。十月ばかりに、衣の用なりければ、衣少しまうけむとて、さるべき所々、うかがひありきけるに、夜中ばかりに、人、みな静まり果てて後、月の朧なるに、衣、あまた着たりける主の、指貫のそば挟みて、絹の狩衣めきたる着て、ただ一人、笛吹きて、行きもやらず、練り行けば、
「あはれ、これこそ、我に絹得させむとて、出でたる人なめり。」
と思ひて走りかかりて、衣をはがむと思ふに、あやしくものの恐ろしくおぼえければ、添ひて、二、三町ばかり行けども、我に人こそ付きたれと思ひたる気色もなし。いよいよ笛を吹きて行けば、試みむと思ひて、足を高くして、走り寄りたるに、笛を吹きながら見返りたる気色、取りかかるべくもおぼえざりければ、走り退きぬ。
かやうに、あまたたび、とざまかうざまにするに、つゆばかりも騒ぎたる気色なし。希有の人かなと思ひて、十余町ばかり具して行く。さりとてあらむやはと思ひて、刀を抜きて走りかかりたるときに、そのたび、笛を吹きやみて、立ち返りて、
「こは、何者ぞ。」
と問ふに、心も失せて、我にもあらで、つい居られぬ。また、
「いかなる者ぞ。」
と問へば、今は逃ぐとも、よも逃がさじとおぼえければ、
「引きはぎに候ふ。」
と言へば、
「何者ぞ。」
と問へば、
「字、袴垂となむ、言はれ候ふ。」
と答ふれば、
「さいふ者ありと聞くぞ。あやふげに、希有のやつかな。」
と言ひて、
「ともに、まうで来。」
とばかり、言ひかけて、また、同じやうに、笛吹きて行く。
この人の気色、今は逃ぐともよも逃がさじとおぼえければ、鬼に神取られたるやうにて、ともに行くほどに、家に行き着きぬ。いづこぞと思へば、摂津前司保昌といふ人なりけり。家のうちに呼び入れて、綿厚き衣、一つを給はりて、
「衣の用あらむときは、参りて申せ。心も知らざらむ人に取りかかりて、汝、過ちすな。」
とありしこそ、あさましく、むくつけく、恐ろしかりしか。
「いみじかりし人のありさまなり。」
と、捕らへられて後、語りける。
現代語訳(口語訳)
昔、袴垂といって、並々ではない盗賊の首領がいました。十月の頃に、着物が必要であったので、着物を少し用意しようと、(盗みをするのに)適した場所を機会をねらって歩いていたところ、夜中ぐらいで、人が皆寝静まった後、月がぼんやりと霞んでいる時に、着物をたくさん身につけている人が、指貫の裾をあげてくくり結んで、絹の狩衣のようなものを着て、ただ一人、笛を吹きながら、行くともなしに、ゆっくりと静かに行くので、(これを見た袴垂は、)
「ああ、この人こそ、俺に絹の着物を得させようとして現れた人であろう。」
と思って走りかかり、着物をはぎとろうと思うのですが、不思議となんだか恐ろしく感じられたので、後に付いて、二、三町ほど行くのですが、(その人は)自分に人が付いてきていると思っているそぶりはありません。ますます笛を吹きながら進むので、(袴垂は)試してみようと思って、足音を高くして(その人に)走り寄ってみるのですが、笛を吹きながら(袴垂のことを)振り返って見たその様子に、(袴垂は、その人に)襲いかかることができそうだとは思われなかったので、走って逃げてしまいました。
このように、何度も、(着物を盗むためにこの人に)あれこれとするのですが、(この人は)少しも慌てる様子がありません。(袴垂はこの人のことを)珍しい人だなと思って、十余町ほど付いていきます。そうはいっても(このままの状態で)良いのだろうか、いやよくないと思って、刀を抜いて走りかかったところ、そのときは、(その人は)笛を吹くのをやめて、立ち返って
「お前は、何者だ。」
と問いかけると、(袴垂は)気力が失せて、心ここにあらずで、膝をついて座ってしまいました。さらに(その人は、)
「どのような者か。」
と問いかけると、今逃げても、(その人は自分のことを)まさか逃すことはないだろうと思ったので、
「追い剥ぎにございます。」
と言うと、(その人は)
「何者なのか。」
と問いただすので、(袴垂は)
「通称、袴垂と言われております。」
と答えたので、(その人は)
「そのような者がいると聞いている。物騒で、とんでもないやつだな。」
と言って、
「一緒に、ついて来い。」
とだけ言って、また、同じように、笛を吹いて行きます。
この人の様子(を見ると)、今逃げようとしてもまさか逃しはしないだろうと思ったので、鬼に心を取られたようになって、一緒に行くと、(その人の)家に行き着きました。(袴垂が、ここは)どこであろうかと思うと、摂津前司保昌という人(の家)なのでした。(保昌は、袴垂のことを)家の中に呼び入れて、錦の厚い着物を一つお与えになって、
「着物が必要になったときには、参って申しなさい。心も知らないような人にとりかかって、お前が、失敗をするな。」
と言われたときには、驚いて、恐ろしく、怖く(感じた)のでした。
「並々でない人の有り様でした。」
と(袴垂は)、捕まえられた後に、語ったのでした。
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