蜻蛉日記
大夫、そばのもみぢのうちまじりたる枝につけて
大夫、そばのもみぢのうちまじりたる枝につけて、例のところにやる。
なつやまのこのした露のふかければ かつぞなげきのいろもえにける
かへりごと、
つゆにのみいろもえぬればことのはを いくしほとかはしるべかるらん
などいふほどに、よひになりて、めづらしき文(ふみ)こまやかにてあり。廿余日いとたまさかなりけり。あさましきことと目なれにたれば、いふかひなくて、なにごころなきさまにもてなすも、わびぬればなめりかしとかつおもへば、いみじうなんあはれに、ありしよりけにいそぐ。
そのころ県(あがた)ありきの家なくなりにしかば、ここにうつろひて、 類おほくことさわがしくてあけくるるも、人目もいかにとおもふ心あるまで音なし。