蜻蛉日記
明くれば御禊のいそぎ近くなりぬ
明くれば、御禊(ごけい)のいそぎ近くなりぬ。
「ここにし給ふべきこと、それそれ」
とあれば、
「いかがは」
とて、しさはぐ。儀式の車にて引きつづけり。下仕(しもづかへ)、手振などが具しいけば、いろふしに出でたらん心ちしていまめかし。
月立ちては
「大嘗会(だいじょうえ)のけみや」
としさわぎ、われも物見のいそぎなどしつるほどに、つごもりにまたいそぎなどすめり。
かく年月はつもれど思ふやうにもあらぬ身をしなげけば、声あらたまるもよろこぼしからず、猶ものはかなきを思へば、あるかなきかの心ちするかげろふの日記といふべし。