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蜻蛉日記原文全集「かくてとかう物することなど」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

かくて、とかう物することなど

かくて、とかう物することなど、いたづく人おほくて、みなしはてつ。今はいとあはれなる山寺につどひて、つれづれとあり。夜、目もあはぬままになげき明かしつつ、山づらをみれば、霧はげにふもとをこめたり。京も、げに誰がもとへかは出でむとすらん、いで、なほここながら死なんと思へど、生くる人ぞいとつらきや。

かくて十余日になりぬ。僧ども念仏(ねぶつ)のひまにものがたりするを聞けば、

「このなくなりぬる人の、あらに見ゆる所なんある、さて近くよれば、きえ失せぬなり。遠うては見ゆなり」、


「いづれのくにとかや」、


「みみらくの島となむいふなる」


など、口々かたるを聞くに、いと知らまほしうかなしうおぼえて、かくぞいはるる。

ありとだによそにてもみむなにしおはば われにきかせよみみらくの山

といふを、兄(せうと)なる人ききて、それもなくなく、

いづことかおとにのみきくみみらくの しまがくれにし人をたづねん

かくてあるほどに、立ちながらものして、日々に訪(と)ふめれど、ただいまは何心もなきに、

「けがらひの心もとなきこと、おぼつかなきこと」


など、むつかしきまで書きつづけてあれど、物おぼえざりしほどのことなればにや、おぼえず。


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・蜻蛉日記原文全集「かくてとかう物することなど」

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The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/
長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店

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