蜻蛉日記
さて寺へものせしとき
さて、寺へものせしとき、とかうとりみだりしものども、つれづれなるままにしたたむれば、あけくれとりつかひし物の具なども、又、書きおきたるふみなどみるに、絶え入る心ちぞする。よはくなり給ひしとき、戒(い)むことうけ給ひし日、ある大徳の袈裟(けさ)をひきかけたりしままに、やがてけがらひにしかば、ものの中よりいまぞ見つけたる。これやりてむとまだしきに起きて、
「この御袈裟(けさ)」
と書きはじむるより、涙にくらされて、
「これゆゑに
はちすばのたまとなるらんむすぶにも そでぬれまさるけさのつゆかな」
と書きてやりつ。