はじめに
このテキストでは、
清少納言が書いた
枕草子の一節「
五月ばかりなどに」(五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし〜)の原文、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
※
清少納言は平安時代中期の作家・歌人です。一条天皇の皇后であった中宮定子に仕えました。そして枕草子は、兼好法師の『徒然草』、鴨長明の『方丈記』と並んで「古典日本三大随筆」と言われています。
読む前に知っておきたいこと
この段では、牛車の乗って出かけたときに感じたことを述べてあります。"
牛車に乗って出かけている"ここがポイントですので、イメージしておきましょう。
原文
五月ばかりなどに山里に
(※1)ありく、いと
をかし。草葉も水もいと青く
見えわたりたるに、上は
つれなくて草生ひ茂りたるを、ながながとたたざまに行けば、下は
(※2)えならざりける水の、深くはあらねど、人などのあゆむに
走り上がりたる、いとをかし。
左右にある垣にあるものの枝などの、車の屋形などに
さし入るを、急ぎて
とらへて折らむとするほどに、ふと過ぎて
はづれたる
(※3)こそ、いと口惜しけれ。蓬の、車に
(※4)押しひしがれたりけるが、輪の
回りたるに、近ううちかかりたるもをかし。
現代語訳(口語訳)
五月の頃などに山里を(牛車で)移動するのは、大変趣がある。草葉も水もたいへん青く一面に見えている中で、表面は何の変化もなくて草木が生い茂っているところを、長々とまっすぐに行くと、草木の下にはなんともいえないほどきれいな水があって、深くはないのだけれど、人などが歩くときに(水が)はね上がるのは、趣がある。
(道中で)左右の垣にある何かの枝が、牛車の屋形(人が乗っているところ)に入ってくるのを、急いでつかまえて折ろうとするうちに、さっと過ぎて(枝が手から)離れてしまったのは、たいそう残念である。蓮で、牛車に押しつぶされたものが、(牛車の)車輪がまわるにつれて、(窓の)近くに(押しつぶされた蓮があがってきて)掛かるのは趣があってよい。
品詞分解
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枕草子『五月ばかりなどに』の品詞分解
単語・文法解説
(※1)ありく | 「歩く」などの意味もあるが、ここでは「行き来する/移動する」の意味で訳す |
(※2)えならざり | 「えならず」の語尾の打消の助動詞「ず」が活用して連用形「ざり」となったもの。 |
(※3)こそ~けれ | 係り結びの法則。「こそ」には已然形がつく |
(※4)(押し)ひしがれたりける | ガ行四段活用「(押し)ひしぐ」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形 |