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9_80 文章の読み解き / 文章の読み解き

百人一首97『来ぬ人をまつほの浦の夕凪に焼くや藻塩の身もこがれつつ』現代語訳と解説(序詞・掛詞・つつ止めなど)

著者名: 走るメロス
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百人一首(97)権中納言定家/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方

来ぬ人を まつほの浦の 夕凪に 焼くや藻塩の 身もこがれつつ


このテキストでは、百人一首に収録されている歌「来ぬ人をまつほの浦の夕凪に焼くや藻塩の身もこがれつつ」のわかりやすい現代語訳・口語訳と解説(序詞・掛詞・縁語、句切れの有無など)、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に、『後撰和歌集』にも収録されています。



百人一首とは

百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。


暗記に役立つ百人一首一覧

以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。

暗記に役立つ百人一首一覧


原文

来ぬ人を (※1)まつほの浦の (※2)夕凪焼くや(※3)藻塩の 身もこがれつつ


ひらがなでの読み方

こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ



現代語訳

逢いに来てくれない人を待ち、松帆の浦の夕凪の頃に海辺で藻塩をじりじりと焼く火のように、私は身がこがれんばかりにあなたのことを恋い慕い続けているのです。


解説・鑑賞のしかた

この歌の詠み手は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての公家・歌人藤原定家(ふじわら の さだいえ/ていか)です。百人一首には権中納言定家(ごんのちゅうなごんさだいえ)と表記されます。言わずと知れた百人一首の撰者です。

この歌は、いくら待っても逢いに来ない人を待ち続ける思いを、女性(乙女)の視点にたって詠んだものとされています。詳しくは以下の「本歌取り」で解説します。


主な技法・単語・文法解説

単語

(※1)まつほの浦淡路島最北部の海岸に沿って広がる平野。海が荒れたときに船の出航を待ったことが由来(待つ帆)とされる。
(※2)夕凪夕方の海岸で、波風がやみ穏やかになること
(※3)藻塩海藻から採れる塩のこと



本歌取り

この歌は、万葉集にある

淡路島 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩焼きつつ 海人娘人 ありとは聞けど...

という長歌をもとにしたものです。すでにある歌をオマージュに新しい歌を詠む技法を本歌取りといいます。

本歌では、淡路島の向こう岸に立つ男性が、淡路島にいる海人乙女(あまおとめ)を想う気持ちを詠んでいます。「逢いに行きたいのだけど手段がない、その勇気もない。」、そんななよなよとした情けない男性の心情が表現されています。これを本歌として定家は、女性の視点でこの歌を詠んだのです。本歌とあわせて詠むことで、乙女の気持ちをより理解することができます。


(※1)掛詞

「掛詞」とは、ひとつの言葉に2つ以上の意味を重ねて表現内容を豊かにする技法のこと。この歌では「まつほの浦」の「まつ」が「待つ」と「松帆」との掛詞になっています。


(※1)歌枕

「松帆」が歌枕。歌に詠み込まれている名所のことを歌枕という。以下に例を記す。

【逢坂の関】
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関

【生駒山】
君があたり見つつを居らむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも


縁語

「焼く」と「藻塩」が縁語。

※「縁語(えんご)」とは、和歌の修辞技法のひとつ。ひとつの和歌にある言葉と、意味や音声の上で関連のある言葉を用いて表現に幅をもたせる技法。


序詞

第二句から第四句までが、「こがれ」を導く序詞。


つつ止め

接続助詞「つつ」を文末に用いて、動作や作用の反復を表現する「つつ止め」という技法が用いられている。百人一首に選ばれた和歌にも多くみられる。


句切れ

句切れなし。


品詞分解

※名詞は省略しています。



カ行変格活用「く」の未然形
打消の助動詞「ず」の連体形
格助詞
まつほの浦
格助詞
夕凪
格助詞
焼くカ行四段活用「やく」の連体形
間投助詞
藻塩
格助詞
係助詞
こがれラ行下二段活用「こがる」の連用形
つつ接続助詞



著者情報:走るメロスはこんな人

学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。
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全訳読解古語辞典 第四版 三省堂
ベネッセ全訳古語辞典 改訂版 Benesse

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