あぢきなし
このテキストでは、ク活用の形容詞「
あぢきなし」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
形容詞・ク活用
未然形 | あぢきなく | あぢきなから |
連用形 | あぢきなく | あぢきなかり |
終止形 | あぢきなし | ◯ |
連体形 | あぢきなき | あぢきなかる |
已然形 | あぢきなけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | あぢきなかれ |
■意味1
(道理から外れていて)
どうしようもない、まともでない。
[出典]:
桐壷 源氏物語
「唐土にも、かかる事の起こりにこそ、世も乱れ、悪しかりけれと、やうやう天の下にも
あぢきなう、人のもてなやみぐさになりて...」
[訳]:唐(中国)でも、このようなこと(帝が女性を寵愛しすぎたこと)が原因で、世の中が乱れて具合が悪いことになったのだと、次第に世間でも
まともでないことと、人の悩みの種となっていて...
■意味2
甲斐がない、無意味だ、無益だ。
[出典]:
安元の大火 方丈記
「人の営み、みな愚かなる中に、さしも危ふき京中の家を作るとて、財を費やし、心を悩ますことは、すぐれて
あぢきなくぞはべる。」
[訳]:人間のすることはみな愚かであるが、(その中でも大火に見舞われた)あんなにも危険な都の中の家を建てるといって、財産を浪費し、心を苦しめることは、際立って
甲斐のないことである。
■意味3
おもしろくない、つまらない。
[出典]:
をりふしの移り変わるこそ 徒然草
「おぼしきこと言はぬは腹ふくるるわざなれば、筆にまかせつつ、
あぢきなきすさびにて、かつ破り捨つべきものなれば、人の見るべきにもあらず。」
[訳]:こうあって欲しいと思うことを口にしないのは(お腹が膨れるような)気持ちが悪いことなので、(この文章は)筆の(勢い)にまかせながら(書いた)、
つまらない気慰みで、(書いては)すぐに破り捨てるべきものだから、人が見るようなものでもない。
■意味4
耐え難い、切ない。
[出典]:たまきはる
「曹子の内にゐて、いとど昔恋しく、あぢきなくて、この母と頼みし人に...」
[訳]:部屋の中にいて、大変昔のことが恋しく、切なくて、この母と頼みにしていた人に...
備考
「あぢきなう」は「あぢきなし」の連用形「あぢきなく」のウ音便。