蜻蛉日記
また二日ばかりありて
また二日ばかりありて
「心のおこたりにはあれど、いとことしげきころにてなん。夜さり物せんにいかならん、おそろしさに」
などあり。
「心ちあしきほどにて、えきこえず」
と物して、思ひたえぬるに、つれなく見えたり。あさましと思ふに、うらもなくたはぶるれば、いとねたさに、ここらの月ごろ念じつることを言ふに、いかなる物とたえていらへもなくて、寝たるさましたり。聞き聞きて、寝たるがうちおどろくさまにて、
「いづら、はや寝たまへる」
と言ひわらひて、人わろげなるまでもあれど、岩木のごとして明かしつれば、つとめて物もいはで帰りぬ。
それよりのち、しひてつれなくて、
「例のことはり、これとしてかくして」
などあるもいとにくくて、いひ返しなどして、言(こと)たえて廿余日になりぬ。
「あらたまれども」
といふなる日のけしき、うぐひすの声などを聞くままに、涙のうかぬときなし。