蜻蛉日記
二月も十余日になりぬ
二月も十余日になりぬ。
「きくところに三夜なんかよへる」
と、ちぐさに人はいふ。つれづれとあるほどに彼岸にいりぬれば、なほあるよりは精進せんとて、うはむしろ、ただのむしろのきよきにしきかへさすれば、塵(ちり)はらひなどするを見るにも、かやうのことは思ひかけざりし物を、など思へばいみじうて、
うちはらふちりのみつもるさむしろも なげくかずにはしかじとぞ思ふ
これよりやがて長精進(ながさうじ)して山寺にこもりなんに、さてもありぬべくは、いかでなほ世の人のたはやすく背く方にもやなりなましと思ひ立つを、人々
「精進は秋ほどよりするこそ、いとかしこかなれ」
と言へば、えさらず思ふべき産屋(うぶや)のこともあるを、これ過ごすべしと思ひて、たたむ月をぞ待つ。