新規登録 ログイン

9_80 その他 / その他

蜻蛉日記原文全集「からうじて行きすぎて」

著者名: 古典愛好家
Text_level_1
マイリストに追加
蜻蛉日記

からうじて行きすぎて

からうじて行きすぎて、走井(はしりゐ)にて破籠(わりご)などものすとて、幕ひきまはしてとかくするほどに、いみじくののしるもの来(く)。いかにせん、誰ならん、供なる人見知るべきものにもこそあれ、あないみじと思ふほどに、馬にのりたるものあまた、車二三ひき続けてののしりて来(く)。

「若狹の守の車なりけり」


といふ。立ちもとまらで行きすぐれば、心ちのどめて思ふ。あはれ、ほどに従ひては思ふ事なげにても行くかな、さるは明け暮れひざまづきありくもの、ののしりてゆくにこそあめれと思ふにも、胸さくる心ちす。下衆ども、車の口につけるも、さあらぬも、この幕ぢかに立ちよりつつ水あみさわぐふるまひの、なめうおぼゆること物に似ず。我ともの人わづかに

「あふ立ちのきて」


などいふめれば、

「例もゆき来の人よる所とは知りたまはぬか、とがめ給ふは」


などいふを見る心ちは、いかがはある。


やりすごして今は立ちてゆけば、関うちこえて、打出(うちいで)の濱に死にかへりてゐたりたれば、先だちたりし人、舟にこも屋形ひきてまうけたり。ものもおぼえずはひ乗りたれば、はるはるとさし出だしてゆく。いと心ちいとわびしくもくるしうも、いみじう物かなしう思ふこと、たぐひなし。申(さる)のをはりばかりに、寺の中につきぬ。


Tunagari_title
・蜻蛉日記原文全集「からうじて行きすぎて」

Related_title
もっと見る 

Keyword_title

Reference_title
The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/
長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店

この科目でよく読まれている関連書籍

このテキストを評価してください。

※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。

 

テキストの詳細
 閲覧数 6,481 pt 
 役に立った数 1 pt 
 う〜ん数 0 pt 
 マイリスト数 0 pt 

知りたいことを検索!