新規登録 ログイン

9_80 その他 / その他

蜻蛉日記原文全集「さて年ごろ思へばなどにかあらん」

著者名: 古典愛好家
Text_level_1
マイリストに追加
蜻蛉日記

さて年ごろ思へばなどにかあらん

さて、年ごろ思へば、などにかあらん、ついたちの日は見えずしてやむ世なかりき。さもやと思ふ心づかひせらる。ひつじの時ばかりに先おひののしる。

「そそ」


など人もさわぐほどに、ふと引き過ぎぬ。いそぐにこそはと思ひかへしつれど、夜もさてやみぬ。つとめて、ここに縫ふ物どもとりがてら、

「きのふの前渡(まへわた)りは、日の暮れにし」


などあり。いと返りごとせまうけれど

「なほ、年のはじめに腹だちなそめそ」


など言へば、すこしはくねりて書きつ。かくしもやすからずおぼえ言ふやうは

「このおしはかりし近江(あふみ)になん文(ふみ)かよふ。さなりたるべし」


と、世にもいひさわぐ心づきなさになりけり。さて二三日もすごしつ。

三日、また申(さる)の時に一日よりもけにののしりて来るを、

「おはしますおはします」


と言ひつづくるを、一日のやうにもこそあれ、かたはらいたしと思ひつつ、さすがに胸はしりするを、近くなればここなる男ども中門(ちゅうもん)おしひらきて、ひざまづきてをるに、むべもなくひきすぎぬ。今日まして思ふ心おしはからなん。

またの日は大饗(だいきょう)とてののしる。いと近ければ、こよひさりともと心みんと、人しれず思ふ。車のおとごとに胸つぶる。夜よきほどにて、皆かへるおともきこゆ。門(かど)のもとよりもあまたおひ散らしつつゆくを、過ぎぬときくたびごとに心はうごく。かぎりとききはてつれば、すべてものぞおぼえぬ。

ある日まだつとめて、なほもあらで文みゆ。返りごとせず。


Tunagari_title
・蜻蛉日記原文全集「さて年ごろ思へばなどにかあらん」

Related_title
もっと見る 

Keyword_title

Reference_title
長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店
The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/

この科目でよく読まれている関連書籍

このテキストを評価してください。

※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。

 

テキストの詳細
 閲覧数 19,221 pt 
 役に立った数 17 pt 
 う〜ん数 42 pt 
 マイリスト数 0 pt 

知りたいことを検索!