蜻蛉日記
またの日もひるつ方ここなるに文あり
またの日もひるつ方、ここなるに文(ふみ)あり。
「御むかへにもと思ひしかども、心の御ありきにもあらざりければ、びんなくおぼえてなん。例のところにか、只今ものす」
などあれば、人々、
「はやはや」
とそそのかしてわたりたれば、すなはちと見えたり。かうしもあるは、昔のことをたとしへなく思ひ出づらんとてなるべし。つとめては、
「かへりあるじのちかくなりたれば」
など、つきづきしういひなしつ。朝(あした)のかごとがちになりにたるも、今さらにと思へばかなしうなん。