うつろふ/移ろふ
「うつろふ」には
①移ろふ
②写ろふ
などの用法があるが、ここでは「①移ろふ」を扱う。
ハ行四段活用
未然形 | うつろは |
連用形 | うつろひ |
終止形 | うつろふ |
連体形 | うつろふ |
已然形 | うつろへ |
命令形 | うつろへ |
■意味1:自動詞
移住する、移り住む。
[出典]:
橋姫 源氏物語
「この川面は、網代の波も、この頃はいとど耳かしかましく静かならぬを、とて、かの阿闍梨の住む寺の堂に
移ろひ給ひて、七日のほど行ひ給ふ。」
[訳]:この川のほとりは、網代の波も、この頃はいっそう耳について静かではないので、といって、あの阿闍梨の住む寺の堂にお
移りになられて、七日ほどお勤めになります。
■意味2:自動詞
色づく、色が変わっていく。
[出典]:
うきたる世 紫式部日記
「いろいろ
移ろひたるも、黄なるが見どころあるも、さまざまに植ゑたてたるも...」
[訳]:色とりどりに
変わっていく菊も、黄色で見どころのある菊も、いろいろと植え込んである菊も...
■意味3:自動詞
色あせる。
[出典]:
刑部卿敦兼と北の方 古今著聞集
「ませのうちなる白菊も
移ろふ見るこそあはれなれ
われらが通ひて見し人も かくしつつこそかれにしか」
[訳]:垣根の内側にある白菊も、
色あせるのを見るのはしみじみと心打たれる。
私が通って結婚した人も、このように枯れるように私の心から離れてしまった。
■意味4:自動詞
心が変わる、顔色が変わる。
[出典]:
古今和歌集
「色見えで
移ろふものは世の中の人の心の花にぞありける」
[訳]:(草木や花であれば、色あせていく様が目に見えるけれど、)外見には見えずに色あせてしまう(
変わってしまう)ものは、人の心に咲く花であったのだなぁ。
■意味5:自動詞
花が散る。
[出典]:古今和歌集
「たれこめて春の行方も知らぬ間に待ちし桜もうつろひにけり」
[訳]:簾を垂らして室内に籠もり、春が移りゆく様子も知らないうちに、(あれほど)待っていた桜の花も散ってしまったのだなあ。
■意味6:自動詞
盛りがすぎる、衰えていく。
[出典]:万葉集
「世間を常なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば」
[訳]:世の中を無情なものだと今知ったことです。奈良の都が衰えるのを見ると。