はじめに
このテキストでは、小倉百人一首や新古今和歌集、
伊勢物語などに収録されている歌「
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」の現代語訳・口語訳と解説、そして品詞分解をしています。
※古今和歌集では、
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに
乱れむと思ふ我ならなくに
と収録されています。
原文
■百人一首
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに
■古今和歌集
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに
ひらがなでの読み方
■百人一首
みちのくの しのぶもぢずり たれゆえに みだれそめにし われならなくに
■古今和歌集
みちのくの しのぶもぢずり たれゆえに みだれむとおもふ われならなくに
現代語訳
■百人一首
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、あなた以外の誰のために心が乱れ初めた私ではないのに
■古今和歌集
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、心が乱れようと思う私ではないのに
解説
伊勢物語には次のように記されています。
初冠(元服して初めて冠を着けること)をした男が、奈良へと狩りに出かけました。その里にはとても美しい姉妹が住んでおり、男は二人を垣間見してしまいました。当時は優れたものはすべて京都に集まるといった思想があり、旧都に、たいそう不釣り合いな様子で美しい姉妹がいたことに対して、男はすっかり心を乱してしまい、
春日野の若紫のすりごろもしのぶの乱れ限り知られず
という歌を詠んだのですが、この歌は、このテキストで扱う「
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」という昔の歌の趣向を踏まえたものでした。
技法
■序詞
上の句(陸奥のしのぶもぢずり)が、「乱れ」を導く序詞。
品詞分解
※名詞は省略しています。
陸奥 | ー |
の | 格助詞 |
しのぶもぢずり | ー |
誰 | 代名詞 |
ゆゑ | ー |
に | 格助詞 |
乱れそめ | マ行下二段活用「みだれそむ」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
し | 過去の助動詞「き」の連体形 |
我 | 代名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」の未然形 |
なく | 打消の助動詞「ず」の未然形+接尾語「く」 |
に | 接続助詞(※諸説あり) |