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更級日記『物語・源氏の五十余巻』(その春、世の中いみじう〜)の現代語訳と解説

著者名: 走るメロス
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更級日記『源氏の五十余巻』

このテキストでは、更級日記の中の一節『物語』の「その春、世の中いみじう騒がしうて〜」から始まる部分の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては「源氏の五十余巻」や「乳母の死」などと題するものもあるようです。作者は菅原孝標女です。



※更級日記は平安中期に書かれた回想録です。作者である菅原孝標女の人生の回想を通して、平安時代の人々の動向をうかがい知れる文学作品です。
原文

その春、世の中いみじう騒がしうて、松里の渡りの月影あはれに見し乳母も、三月朔日に亡くなりぬ。せむかたなく思ひ嘆くに、物語のゆかしさもおぼえずなりぬ。いみじく泣き暮らして見出だしたれば、夕日のいと華やかに差したるに、桜の花残りなく散り乱る。

散る花もまた来む春は見もやせむやがて別れし人ぞ悲しき




また聞けば、侍従の大納言の御むすめ、亡くなり給ひぬなり。殿の中将の思し嘆くなるさま、わがものの悲しき折なれば、いみじくあはれなりと聞く。上り着きたりしとき、

「これ手本にせよ。」


とて、この姫君の御手を取らせたりしを、

「さ夜ふけて寝覚めざりせば。」




など書きて、

鳥辺山谷に煙の燃え立たばはかなく見えしわれと知らなむ


と、言ひ知らずをかしげに、めでたく書き給へるを見て、いとど涙を添へまさる。

現代語訳(口語訳)

その年の春、世の中は(疫病が大流行したために)大変騒がしくて、松里の渡し場で月の光に照らし出された姿がしみじみ心を動かされるように思えた乳母も、三月一日に亡くなった。



たまらなく切なく嘆き悲しんでていると、物語を読みたいという気持ちも思わなくなってしまった。たいそう泣き暮らして(ふと)外を見たところ、夕日がとても華やかに差し込んでいるところに、桜の花が残す所なく散り乱れている。

散る花はまた来る春に見ることができるだろう。しかしそのまま別れてしまった人は、(二度と会うことができないので)恋しい




また聞くところによると、侍従の大納言の姫君が、お亡くなりになられたそうだ。(姫君の夫である)殿の中将が悲し嘆かれるご様子が、私自身が(乳母が亡くなって)悲しんでいる折であるので、たいそうお気の毒にと思って聞く。京へ上京してきたとき、

「これを手本にしなさい。」


といって、(とある人が)この姫君のご筆跡を(私に)渡してくれたが、(その中に)

「夜が更けて、もし目覚めなかったならば。」


などと書いてあり、

鳥辺山の谷に煙が燃え立ったならば、弱々しく見えた私だと知ってください




と、何とも言えず趣深く、すばらしく書いていらっしゃるのを見て、いっそう涙が増えた。

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『教科書 古典B』 桐原書店
佐竹昭広、前田金五郎、大野晋 編1990 『岩波古語辞典 補訂版』 岩波書店

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