白居易『長恨歌』原文・現代語訳と解説
このテキストでは、
白居易の詠んだ『
長恨歌』の原文・書き下し文、現代語訳とその解説を記しています。今回はその4回目です。長いので全文を12段に区切り、その都度書き下し文と現代語訳、解説を記しています。
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白居易『長恨歌』書き下し文・現代語訳と解説
原文(白文)
金闕西廂叩玉扃
転教小玉報双成
聞道漢家天子使
九華帳裏夢魂驚
攬衣推枕起徘徊
珠箔銀屛邐迤開
雲鬢半偏新睡覚
花冠不整下堂来
風吹
仙袂飄颻挙
猶似霓裳羽衣舞
玉容寂寞涙闌干
梨花一枝春帯雨
■書き下し文
金闕(きんけつ)の西廂(せいしょう)に玉扃(ぎょくけい)を叩き
転じて小玉をして双成に報ぜしむ
聞道(き)くならく漢家天子の使ひなりと
九華の帳裏夢魂(むこん)驚く
衣を攬(と)り枕を推して起(た)ちて徘徊す
珠箔(しゅはく)銀屛(ぎんぺい)邐迤(りい)として開く
雲鬢(うんびん)半ば偏りて新たに睡(ねむ)りより覚め
花冠整へず堂を下り来たる
風は仙袂(せんべい)を吹ひて飄颻(ひょうよう)として挙がり
猶(な)ほ霓裳(げいしょう)羽衣の舞に似たり
玉容寂寞(ぎょくようせきばく)涙闌干(らんかん)
梨花一枝春雨を帯ぶ
■現代語訳
黄金で作られた西側の建物の玉で飾られた門を叩き、
(侍女の)小玉に、(さらに別の侍女である)双成に(皇帝の使いがきたことを)報告させます。
聞くところによると、漢の天子(皇帝)のお使いということです。
幾重もの美しいとばりの中で(太真の)夢を見ていた魂がはっと目を覚ましました。
(彼女は)衣を取り、枕を押しのけて起き上がって(部屋の中を)うろうろしました。
真珠のすだれや銀の屏風が次々と開かれます。
雲のように豊かでやわらかい髪はなかば整わずに、眠りから覚めたばかりのようで、
美しい飾りのある冠を整えないまま、堂を下りてきました。
(その時)風が仙女の着た服のたもとを拭き上げて、ひらひらと舞い上げて、
(その様子は、かつて皇帝が興じた)霓裳羽衣の舞に似ていました。
(彼女の)玉のように美しい顔はどこか寂しげて、涙がこぼれ落ちています。
(その様子は)一枝の梨の花が春の雨にうたれているかのようです。
■単語解説
転教小玉報双成 | 「教AB」で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と使役の意味で訳す |
雲鬢 | 雲のように豊かでやわらかい髪 |
仙袂 | 仙女の着た服のたもと |
■押韻
「扃、成、驚」、「徊、開、来」、「挙、舞、雨」がそれぞれ韻を踏んでいます。