「おふ」の意味・使用例
このテキストでは、古文単語「おふ」の意味、解説とその使用例を記している。
「おふ」には
①
負ふ(ハ行四段活用)
②
生ふ(ハ行上二段活用)
③
追ふ(ハ行四段活用)
④覆ふ(ハ行四段活用)
などの用法がある。
①負ふ
ハ行四段活用
■意味1:自動詞
似合う、似つかわしい、釣り合う。
※この用法の場合、「〜に負ふ」の形で用いられる。
[出典]:古今和歌集
「文屋康秀は、詞はたくみにて、そのさま身に負はず。」
[訳]:文屋康秀は、言葉(の使い方)は巧みであるが、その(歌の)体裁が内容に釣り合わない。
■意味2:他動詞
背負う、背中にのせる、担ぐ。
[出典]:
芥川 伊勢物語
「これは、二条の后の、いとこの女御の御もとに、仕うまつるやうにてゐ給へりけるを、かたちのいとめでたく おはしければ、盗みて
おひて出でたりけるを...」
[訳]:これは、二条の后が、いとこの女御のお側に、お仕え申し上げるような形で(身を寄せて)おいでになっていたのですが、(二条の后の)容貌がとても美しくていらっしゃったので、(男が二条の后を)盗んで
背負って出たのですが...
■意味3:他動詞
有名である、(名に)もつ。
※この用法の場合、「名に負ふ」の形で用いられる。
[出典]:
折節の 徒然草
「花橘は名にこそ
負へれ、なほ、梅の匂ひにぞ、いにしへの事も立ちかへり恋しう思ひいでらるる。」
[訳]:橘の花は(昔のことを恋しく思わせることで)
有名であるが、やはり、梅の香によって、昔のことも立ち返って恋しく思いだされる。
■意味4:他動詞
身に受ける、被る。
[出典]:
桐壷 源氏物語
「朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを
負ふ積もりにやありけむ...」
[訳]:朝夕の宮仕えにつけても、(その女性の行動は)人の心を動揺させ、恨みを
身に受けることが積もったからでしょうか...
■意味5:他動詞
借金する、負債を負う。
[出典]:宇治拾遺物語
「その人は、わが金を千両負ひたる人なり。」
[訳]:その人は、私の金を千両借金している人です。
②生ふ
ハ行上二段活用
■意味:自動詞
生える、生い茂る、成長する。
[作者]:
帰京 土佐日記
「今
生ひたるぞ交じれる。」
[訳]:(松には)新しく
生えたものがまじっている。
③追ふ
ハ行四段活用
■意味1:他動詞
追いかける、後を追う。
[出典]:
海賊の恐れ 土佐日記
「二十六日。まことにやあらむ。『海賊
追ふ。』と言へば、夜中ばかり舟を出だして漕ぎ来る路に手向けする所あり」
[訳]:二十六日。(海賊が追ってくるという噂は)本当なのだろうか。「海賊が
後を追う。」と言うので、夜中ぐらいに船を出して漕いでいく途中に、神仏に供え物をする所がある
■意味2:他動詞
目指して行く。
[出典]:
羽根 土佐日記
「十一日。暁に舟を出だして、室津を
追ふ。」
[訳]:11日。夜明け前に船を出して、室津を
目指して行く。
■意味3:他動詞
追い払う、追放する。
[出典]:蜻蛉日記
「田守のもの追ひたる声...」
[訳]:田の番人の獣や鳥などを追い払う声が...
■意味4:他動詞
先払いをする。
※この用法の場合多くが、「先を追ふ」の形で用いられる。
[出典]:徒然草
「この殿大将にて、先を追はれけるを...」
[訳]:この殿が大将であって、先払いをおさせになったのを...
■意味5:他動詞
先例にならう。
④覆ふ
ハ行四段活用
■意味:他動詞
覆う
上代の用法。「
覆ふ」を参照。