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枕草子 原文全集「成信の中将こそ/大蔵卿ばかり」

著者名: 古典愛好家
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成信の中将こそ

成信の中将こそ、人の声はいみじうよう聞きしり給ひしか。おなじ所の人の声などは、つねに聞かぬ人はさらにえ聞きわかず、ことに男は、人の声をも手をも、見わき聞きわかぬものを、いみじうみそかなるも、かしこう聞きわき給ひしこそ。



大蔵卿ばかり

大蔵卿ばかり耳とき人はなし。まことに、蚊のまつげの落つるをも聞きつけ給ひつべうこそありしか。
 

職の御曹司の西面に住みしころ、大殿の新中将、宿直(とのゐ)にて、ものなどいひしに、そばにある人の、

「この中将に扇の絵のこといへ」


とささめけば、

「いま、かの君のたち給ひなむにを」


といとみそかにいひ入るるを、その人だにえ聞きつけで、

「何とか、何とか」


と耳をかたぶけ来(く)るに、とをくゐて、

「にくし。さのたまはば、けふはたたじ」


とのたまひしこそ、いかで聞きつけ給ふらむと、あさましかりしか。


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・枕草子 原文全集「成信の中将こそ/大蔵卿ばかり」

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渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社

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