百人一首(51)藤原実方朝臣/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方
かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
このテキストでは、
百人一首に収録されている歌「
立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む」の現代語訳・口語訳と解説(掛詞・序詞・縁語など)、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に、
後拾遺和歌集にも収録されています。
百人一首とは
百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・
藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、
小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。
暗記に役立つ百人一首一覧
以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。
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暗記に役立つ百人一首一覧
原文
かくと(※1)だに (※2)えやは(※3)伊吹の (※4)さしも草 (※5)さしも知らじな 燃ゆる(※6)思ひを
ひらがなでの読み方
かくとだに えやはいぶの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを
現代語訳
せめてこのように(慕い申し上げているとだけでも)お伝えしたいのですが、どうしてできましょうか。それほどとはあなたはご存知ないでしょう。伊吹山のさしも草のように燃え上がっている私の想いを。
解説・鑑賞のしかた
この歌の詠み手は、
藤原実方朝臣(ふじわら の さねかたあそん)です。風流才子であり、清少納言と交際をしていたや光源氏のモデルの一人といった説があります。
そんな人物が、思いを寄せた女性に初めて送ったのがこの歌です。後述のとおり、序詞、掛詞、縁語、倒置法などを駆使した技巧的な歌です。そうした表面的なテクニックだけではなく、心に秘めた熱い思いを、火をつけると外側はあまり燃えないにもかかわらず内側は赤く燃えるさしも草(よもぎ)に例えた、見事なラブレターだと言えるでしょう。
主な技法・単語・文法解説
■単語
(※1)だに | 願望・命令・仮定などの表現とともに用いられて「せめて-だけでも。」と訳す |
(※2)えやは | 反語の意で「どうして~できるだろうか、いやできない」と訳す |
(※4)さしも草 | よもぎのこと。後述のとおり「さしも」を導く序詞として用いられる。 |
(※5)さしも | 下に打消や反語表現を伴って、「それほど、大して、あまり」などと訳す |
■掛詞
「
掛詞」とは、ひとつの言葉に2つ以上の意味を重ねて表現内容を豊かにする技法のこと。この歌では、以下の2つが掛詞となっている。
■(※3)伊吹
地名の「伊吹」と「言ふ」をかけた掛詞。伊吹はさしも草(よもぎ)で有名。
■(※6)思ひ
思ひの「ひ」が「火」と掛詞になっている。
■(※4)序詞
「さしも草」が、「さしも」を導く序詞。
■縁語
「さしも草」と「燃ゆる」と「火」が縁語。
※「縁語(えんご)」とは、和歌の修辞技法のひとつ。ひとつの和歌にある言葉と、意味や音声の上で関連のある言葉を用いて表現に幅をもたせる技法。
■倒置
「さしも知らじな」と「燃ゆる思ひを」が倒置になっている。
■句切れ
句切れなし。
品詞分解
※名詞は省略しています。
かく | 副詞 |
と | 格助詞 |
だに | 副助詞 |
え | 副詞 |
やは | 係助詞 |
伊吹 | 地名の「いぶき」と「言ふ」をかけた掛詞 |
の | 格助詞 |
さしも草 | ー |
さしも | 副詞 |
知ら | ラ行四段活用「しる」の未然形 |
じ | 打消推量の助動詞「じ」の終止形 |
な | 終助詞 |
燃ゆる | ラ行下二段活用「もゆ」の連体形 |
思ひ | ー |
を | 格助詞 |
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。