平家物語
徳大寺厳島詣
まことに彼社には、内侍とて、ゆうなる女どもおほかりけり。七日参籠せられけるに、夜昼つきそひ奉りもてなすことかぎりなし。七日七夜の間に、舞楽も三度までありけり。琵琶、琴弾き、神楽うたひなんど遊びければ、実定卿も面白きことに思し召し、神明法楽どもありけり。内侍共、
「当社へは平家の公達こそ御参りさぶらふに、この御参りこそめづらしうさぶらへ。何事の御祈誓に御参籠さぶらふやらむ。」
と申しければ、
「大将を人に超えられたる間、その祈のためなり。」
とぞ仰せられける。さて七日参籠おはつて、大明神に暇申して都へのぼらせ給ふに、名残惜しみ奉り、むねとのわかき内侍十余人、舟をしたてて一日路をおくり奉る。暇申しけれども、
「さりとてはあまりに名残惜しきに、今一日路」
「今二日路 」
仰せられて、都までこそ具せられけれ 。徳大寺の亭へ入れさせ給ひて、やうやうにもてなし、様々の御引出物供たうでかへされけり。
つづき