周口店上洞人とは
周口店上洞人とは、中国の北京市にある
周口店遺跡の上方に位置する竜骨山の洞穴から発見された化石人類のことです。周口店上洞人は、ホモ=エレクトスの亜種である
北京原人とは異なり、ホモ=サピエンスに属する新人の段階の人類です。周口店上洞人の発見は、人類学や考古学において重要な意義を持つとともに、中国の文化やアイデンティティにも影響を与えたといわれています。
周口店上洞人の発見の経緯
周口店上洞人の発見は、1920年代から1930年代にかけて行われた周口店遺跡の発掘調査の一環として行われました。周口店遺跡は、北京市の南西約40キロメートルにある竜骨山と呼ばれる石灰岩の丘にある洞窟群で、周口店遺跡の発掘調査は、カナダの人類学者であるデイヴィッドソン・ブラックが中心となって行われました。ブラックは、1921年に周口店遺跡から発見された一本の歯をもとに、新たな人類の種であるシナントロプス(中国の人)と名付けました。その後、周口店遺跡からは、北京原人と呼ばれるシナントロプスの頭蓋骨や顎骨、歯などが多数発見されました。北京原人は、ホモ=エレクトスの亜種であり、約80万年前から25万年前にかけて周口店遺跡に住んでいたと考えられています。北京原人の発見は、当時の人類学界に衝撃を与え、北京原人は、アフリカ以外で発見された最古の人類の化石であり、人類の起源や進化に関する従来の説を覆すものでした。北京原人は、アジア起源説と呼ばれる説の根拠となり、人類はアジアで進化したという考え方が広まりました。
1933年、周口店遺跡の発掘調査は、北京原人が発見された洞窟の上方にある別の洞窟にも及び、この洞窟は、山頂洞と呼ばれていました。山頂洞からは、北京原人とは異なる形質を持つ人骨が発見され、これらの人骨は、上洞人と呼ばれるようになりました。上洞人は、少なくとも7体分の人骨が発見されており、そのうち3体は比較的完全な頭蓋骨を持っていました。上洞人の人骨は、北京原人の人骨とは異なる層から発見され、上洞人の人骨は、更新世後期の第四氷期に相当する約1万8000年前から1万年前のものであると推定されました。上洞人の人骨とともに、石器や骨器、装身具などの文化遺物も発見され、上洞人は、ホモ・サピエンスに属する新人の段階の人類であり、ヨーロッパのクロマニョン人や日本の港川人と同時期の人類であると考えられています。
周口店上洞人の形質と意義
周口店上洞人の形質は、現生人類の中でも長身で長頭で広顔の特徴を有します。上洞人の身長は、男性で約174センチメートル、女性で約159センチメートルであったと推定されています。上洞人の脳容量は、男性で約1500立方センチメートル、女性で約1380立方センチメートルであったと推定され、上洞人の頭型は、頭幅と頭長の比率で表される頭指数が70前後であり、長頭型です。上洞人の顔は、目窩が広く、顎が強く、顎には顎突がない。上洞人の歯は、大きくて強いものでした。
周口店上洞人の形質は、現生人類の中でも東アジアの人々に近いと考えられています。周口店上洞人は、東アジアの基層集団の一つであり、東アジアの人々の祖先の一つであるという説が有力です。周口店上洞人は、モンゴロイドと呼ばれる人種の形成に関係したという見方もあり、周口店上洞人の形質は、個体間にも多様性があるという意見もアあります。また周口店上洞人の中には、メラネシア人やエスキモーの特徴を示すものもあるという主張や、複数の人種の集合体であるという説もあります。周口店上洞人の形質は、人類の進化や分化の過程を示す貴重な資料であると言えます。