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平家物語原文全集「少将乞請 3」

著者名: 古典愛好家
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平家物語

少将乞請

西八条より、使しきなみにありければ、宰相、

「行き向かうてこそ、ともかうもならめ」


とて出で給へば、少将も宰相の車の後にのってぞ出でられける。保元・平治よりこの方、平家の人々、楽しみ栄へのみあって、憂へ嘆きはなかりしに、この宰相ばかりこそ、由なき聟ゆへに、かかる嘆きをばせられけれ。西八条近うなって、車をとどめ、まづ案内を申し入れられければ、太政入道、

「丹波少将をばこの内へは入れらるべからず」


とのたまふ間、其の辺ちかき侍の家におろしおきつつ、宰相ばかりぞ門の内へは参入り給ふ。少将をば、いつしか兵共うちかこんで守護し奉る。たのまれたりつる宰相殿には離れ給ひぬ、少将の心のうち、さこそはたよりなかりけめ。宰相、中門に居給ひたれば、入道対面もし給はず。源大夫判官季貞をもって申し入れられけるは、

「教盛こそ、よしなき者に親しうなって、返す返す悔しう候へども、かひぞ候はず。相具しさせて候ふものが、このほど悩む事の候ふなるが、今朝よりこの嘆きをうち添へては、既に命も絶えなんず。何かはくるしう候ふべき、少将をばしばらく教盛に預けさせおはしませ。教盛かうて候へば、なじかはひが事させ候ふべき」


と申されければ、季貞参ってこの由申す。入道

「あはれ、例の宰相が物に心得ぬ」


とて、とみに返事もし給はず。ややあって入道のたまひけるは、

「新大納言成親、この一門を滅ぼして、天下を乱らむとする企てあり。この少将は、既にかの大納言が嫡子なり。疎うもあれ親しうもあれ、えこそ申し宥むまじけれ。もしこの謀反遂げましかば、御辺とてもおだしうやおはすべきと申せ」


とこそのたまひけれ。

つづき
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・平家物語原文全集「少将乞請 3」

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梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

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