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蜻蛉日記原文全集「かくてあまたある中にも」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

かくてあまたある中にも

かくて、あまたある中にも、たのもしきものに思ふ人、この夏よりとほくものしぬべきことのあるを、

「服(ぶく)はてて」


とありつれば、このごろ出でたちなんとす。これを思ふに、心ぼそしと思ふにもおろかなり。今はとて出でたつ日、わたりて見る。裝束ひとくだりばかり、はかなき物など、硯箱ひとよろひにいれて、いみじうさわがしうののしりみちたれど、我もゆく人も目も見あはせずただむかひゐて涙をせきかねつつ、みな人は、

「など」、


「念ぜさせ給へ」、


「いみじういむなり」


などぞいふ。されば車にのりはてんを見むはいみじからんと思ふに、家より

「とくわたりね。ここにものしたり」


とあれば、車よせさせてのるほどに、ゆく人は二藍(ふたい)の小袿(こうちぎ)なり、とまるはただ薄物の赤朽葉(あかくちば)をきたるを、ぬぎかへてわかれぬ。九月十余日のほどなり。家にきても、

「などかく、まがまがしく」


と、とがむるまでいみじう泣かる。






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・蜻蛉日記原文全集「かくてあまたある中にも」

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長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店
The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/

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